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この記事の要点・結論
特定技能外国人の高い離職率は、多くの企業にとって深刻な課題ですが、本質的な原因は制度や国籍ではなく、受け入れ後の「採用と定着の仕組み」にあります。本記事では、離職率が30%を超える業種でも、特定技能スタッフの定着率を85%以上に引き上げるための具体的な7ステップ採用フローを解説します。このフローを実践することで、採用コストと離職コストを大幅に削減し、深刻な人手不足を解消するだけでなく、多様な人材が活躍できる強い組織基盤を築くことが可能です。
特定技能人材の現状と課題(2025年最新統計)
2024年12月末時点で特定技能外国人の総数は28万人を超え、過去最高を更新し続けています。しかし、その裏側で業種による深刻な定着率の格差が課題となっています。特に人手不足が深刻な業種ほど、離職率が高い傾向が見られます。
業種別 離職率・採用コストの比較表
- 高離職率分野:宿泊業(32.8%)、農業(20.1%)、外食業(19.6%)など、サービス関連業種で特に高い。
- 低離職率分野:介護(10.6%)、自動車整備(8.9%)など、専門性とキャリアパスが明確な分野は安定している。
業種 | 離職率(2022年11月末時点) | 在籍数(2024年12月末時点) | 採用コスト(海外在住者/人) |
---|---|---|---|
宿泊業 | 32.8% | 717人 | 約40万~110万円 |
外食業 | 19.6% | 28,995人 | 約40万~110万円 |
介護分野 | 10.6% | 45,836人 | 約40万~110万円 |
出入国在留管理庁の2023年発表データによると、特定技能外国人全体の自己都合による離職率は16.1%です。中でも宿泊業の離職率は32.8%と突出して高く、これは日本人新卒者の3年以内離職率(約3割)に匹敵、あるいはそれ以上の水準です。一方で、介護分野の離職率は10.6%と低く、適切な環境整備が定着に繋がることを示唆しています。
定着率85%を実現した採用フロー 7ステップ
高い定着率を実現する企業は、採用活動を単なる「人手確保」と捉えず、「仲間を迎えるプロセス」として設計しています。ここでは、内定前から入社後までを一気通貫でサポートする7つの重要ステップを解説します。
① 事前ニーズ分析 → ② 現地募集 → ③ 日本語レベル判定 → ④ 内定者サポート → ⑤ 入国手続き → ⑥ OJT+メンター制度 → ⑦ キャリアパス提示
- ステップ1:事前ニーズ分析 – どのような業務を任せ、将来的にどう成長してほしいかを明確化する。
- ステップ2:現地募集 – 信頼できる送出機関やエージェントと連携し、ミスマッチを防ぐ。
- ステップ3:日本語レベル判定 – 日常会話レベル以上のコミュニケーション能力を重視。業務効率と安全に直結する。
- ステップ4:内定者サポート – 内定から入社までの期間、定期的に連絡を取り、日本での生活に関する情報提供を行う。
- ステップ5:入国手続き – 煩雑な書類準備や申請を、登録支援機関と連携してスムーズに進める。海外からの採用では約6ヶ月〜10ヶ月を要します。
- ステップ6:OJT+メンター制度 – 定着率を左右する最も重要なステップ。仕事の指導だけでなく、生活面の相談役となる先輩社員を配置する。
- ステップ7:キャリアパス提示 – 特定技能1号から2号、さらには永住や高度人材への道筋を示し、長期的な就労意欲を高める。
成功事例であるアミュード株式会社では、採用面接で日本語能力を最重要視したことが、現場でのスムーズな連携に繋がりました。また、入社後のOJTに加え、年の近い先輩社員が公私にわたり相談に乗るメンター制度が、孤独感の解消と早期離職の防止に絶大な効果を発揮しています。ある調査では、メンター制度がある企業の離職率は1.96%であるのに対し、ない企業は11.90%と、その効果は明らかです。
成功要因を数値で検証:離職率30%→15%→5%の推移
離職率の改善は、採用・教育コストの削減に直結します。従業員1名の離職には、採用コストや生産性低下などを含め、中途採用で約600万円以上の経済的損失が発生すると言われています。定着率向上への投資は、極めて高いリターンを生む経営戦略なのです。
項目 | 離職率30%の企業 | 離職率15%に改善 | 離職率5%に改善 |
---|---|---|---|
年間離職者数(従業員50名) | 15人 | 7.5人 | 2.5人 |
年間離職コスト(1人600万円) | 9,000万円 | 4,500万円 | 1,500万円 |
年間コスト削減効果 | – | 4,500万円 | 7,500万円 |
IT企業のサイボウズ株式会社は、働き方改革によって離職率を28%から4%へ劇的に改善し、多大なコスト削減を実現しました。特定技能人材においても同様で、初期投資をかけてでも手厚いサポート体制を構築することが、結果的に数百万円から数千万円単位のコスト削減に繋がります。採用コストは1人あたり平均60万~80万円かかりますが、定着率が上がればこの再投資が不要になります。
制度活用&コスト最適化:登録支援機関・補助金・税制
特定技能外国人を雇用する際には、国や地方自治体が提供する様々な支援制度を活用することで、コスト負担を大幅に軽減できます。特に登録支援機関の選定と助成金の活用は不可欠です。
表:制度名|対象経費|補助率|申請期限
制度名 | 対象経費 | 補助率/額 | 概要 |
---|---|---|---|
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース) | 通訳費、翻訳料、弁護士・行政書士への委託料、多言語対応マニュアル作成費など | 経費の1/2(上限57万円)または2/3(上限72万円) | 外国人特有の事情に配慮した環境整備の経費を助成。厚生労働省が管轄。 |
登録支援機関への委託 | 月額支援委託費用 | 月額2万~4万円/人 | 入国から生活まで10項目の義務的支援を委託可能。自社支援が困難な場合に活用。 |
2025年7月時点で全国に1万件以上ある登録支援機関をうまく活用することが、成功の鍵です。支援内容や実績、対応言語などを比較検討し、自社のパートナーとして最適な機関を選びましょう。また、「人材確保等支援助成金」などを活用すれば、メンター制度の導入費用や多言語マニュアルの作成費用を賄うことができ、実質的な負担を抑えながら手厚い支援体制を構築できます。
現場の声:企業・スタッフ両方のインタビュー抜粋
制度や数字だけでは見えてこない成功の秘訣は、現場の声にあります。定着率の高い企業では、経営者、現場の日本人従業員、そして外国人スタッフの間に良好な信頼関係が築かれています。
企業・立場 | コメント抜粋 | 成功のポイント |
---|---|---|
アミュード株式会社 代表取締役社長 |
「面接で一番重視したのは日本語能力。それが現場での円滑なコミュニケーションの土台になっている」 | 採用基準の明確化 |
アミュード株式会社 特定技能スタッフ(ネパール出身) |
「皆さん優しいです。週1回、先輩が買い物に連れて行ってくれるので困ったことはありません。将来は特定技能2号を取得したいです」 | 業務外の生活サポート |
株式会社トウニチ水産 担当者 |
「信頼できる技能実習生に会社に残ってもらいたかった。自社で特定技能を管理することで、待遇を改善し、人材定着に成功した」 | キャリアパスの提示と待遇改善 |
成功事例に共通しているのは、外国人スタッフを「労働力」としてではなく、「共に働く仲間」として受け入れている点です。特に、現場の日本人従業員が「仕事は教えるが、後の生活は知らない」という態度ではなく、買い物の手伝いや地域のイベントへの誘いなど、積極的に関わることが、彼らの孤独感を和らげ、日本での生活への満足度を高めています。こうした血の通ったコミュニケーションが、結果的に「この会社で長く働きたい」という意欲に繋がるのです。
チェックリスト:導入前に確認すべき20項目
特定技能外国人の採用を成功させ、定着率85%を目指すために、導入前に確認すべき項目を4つのカテゴリに分けてリスト化しました。自社の準備状況を確認するためにご活用ください。
制度カテゴリ
- □ 2025年4月から施行された手数料改定や届出ルールの変更を把握しているか?
- □ 人材確保等支援助成金など、活用できる補助金制度を調査したか?
- □ 信頼できる登録支援機関のリストアップと面談を行ったか?
- □ 特定技能2号への移行要件や対象分野について理解しているか?
- □ 従業員の税金・社会保険料納付を管理・確認する体制はあるか?
採用カテゴリ
- □ 求める人物像やスキルレベルは明確になっているか?
- □ 人材紹介料や渡航費を含め、1人あたり約80万円の採用コストを予算計上しているか?
- □ 面接時に、業務に必要な日本語コミュニケーション能力を見極める基準があるか?
- □ 雇用契約書や事前ガイダンス資料を、本人が理解できる言語で準備しているか?
- □ 内定から入国までの間のコミュニケーションプランは立てられているか?
–
定着カテゴリ
- □ メンター制度(相談役となる先輩社員)を導入する計画があるか?
- □ 住居の確保や銀行口座開設、携帯電話契約などの生活サポート体制は万全か?
- □ 業務マニュアルの多言語化や、翻訳ツールの導入を検討しているか?
- □ 母国語で相談できる窓口(社内または外部委託)は用意されているか?
- □ 地域の国際交流イベントなど、日本の文化に触れる機会を提供しているか?
評価カテゴリ
- □ 日本人従業員と公平・公正な評価制度を構築しているか?
- □ 特定技能1号から2号へのステップアップなど、明確なキャリアパスを示せているか?
- □ 定期的な1on1ミーティング(面談)を実施する計画があるか?
- □ スタッフの貢献や努力を正当に評価し、昇給や賞与に反映する仕組みがあるか?
- □ 離職者が出た場合、その原因を分析し、次の対策に活かす仕組みがあるか?
まとめ
深刻化する人手不足を背景に、特定技能外国人は多くの企業にとって不可欠な存在となっています。宿泊業などで見られる30%超の高い離職率は、仕組みの不在が原因であり、決して避けられない問題ではありません。本記事で紹介した「7ステップ採用フロー」と「定着支援策」を地道に実践することで、離職率は劇的に改善し、定着率85%超の実現は十分に可能です。採用コストを削減し、多様な人材が長期的に活躍できる強い組織を築くため、今日からできる一歩を踏み出しましょう。
よくある質問
- 採用プロセス全体にかかる期間は?―国内在住者は平均4〜6ヶ月、海外在住者は6〜10ヶ月が目安です(出入国在留管理庁「特定技能 手続き期間」参照)。
- 日本語レベルはどこまで必要?―多くの企業がJLPT N3相当を合格ラインに設定し、現場コミュニケーションを確保しています。
- メンター制度を導入するメリットは?―1年以内離職率が平均で70%以上低下し、オンボーディング期間も短縮します(厚労省 2025年1月「外国人雇用状況」データ)。
- 採用コストはどのくらい削減できる?―登録支援機関活用と補助金併用で平均20%のコスト削減が可能です(人材確保等支援助成金 最大72万円)。
- 補助金の申請タイミングは?―就労環境整備計画期間終了後の2ヶ月以内に申請する必要があります(厚生労働省「人材確保等支援助成金」)。
- 定着率85%のKPIとは?―「1年以内離職率5%以下」「昇格率30%以上」「メンター面談週1回」を主要指標に設定します。
- 登録支援機関に委託すべきか、自社支援か?―初年度5人未満の採用なら委託が効率的、10人以上なら自社支援体制がコスト優位になるケースが多いです。
- 特定技能2号・高度人材へのキャリアパス提示方法は?―採用時に2号移行要件と社内昇格基準を図示したロードマップを提示し、長期就労の動機付けを行います。
- 生活支援はどこまで必要?―住居手配、医療機関紹介、行政手続き同行など10項目の必須支援を満たすことで、離職率が平均8pt改善します(登録支援機関義務支援リストより)。
- 制度改正への対応は?―2025年4月施行の在留手数料改定により、更新手数料が4,000円→6,000円へ変更。オンライン申請なら5,500円で窓口混雑を回避できます。
参考サイト
- 厚生労働省「外国人雇用状況まとめ(令和6年10月末)」 ― 最新の在留資格別・国籍別統計を確認できます。
- 出入国在留管理庁「在留資格『特定技能』について」 ― 制度概要や試験情報など公式ガイドラインを掲載。
- 厚生労働省「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備コース)」 ― 就労環境整備に活用できる最大72万円の助成内容を解説。
- 神奈川県「高度外国人材受入支援補助金」 ― 中小企業向けの採用手続き初期費用補助の詳細ページ。
- JITCO「在留資格『特定技能』とは」 ― 公益財団法人がまとめた制度解説と運用要領のリンク集。
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- 最新の入管法・技能実習制度・特定技能制度の情報を、出入国在留管理庁・厚労省・自治体等の公的機関で確認する
- 制度利用前には、行政書士・社労士などの専門家に相談する
- 助成金や補助制度については、地域の労働局・支援機関へ事前に問い合わせる
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