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この記事の要点・結論
特定技能外国人のビザ更新費用について、「一人あたり6万円で大丈夫」という話を聞いたことはありませんか?本記事では、その真偽を徹底的にシミュレーションします。結論から言うと、6万円で更新できるのは、自社で全ての申請手続きを行い、かつ登録支援機関を利用しない限定的なケースのみです。
実際には、多くの企業が外部の専門家を活用するため、総額は1名あたり10万円から、複数名では30万円を超えることも珍しくありません。この記事を読めば、人事・労務担当者が自社の状況に合わせて正確な費用を試算し、3年後までの予算計画を立てられるようになります。
- 費用の構成:更新費用は「①必須費用」「②支援委託費」「③申請代行費」「④その他経費」の4つに分解できる。
- コストの鍵:費用の大部分を占めるのは「登録支援機関」と「行政書士」への委託費。ここを内製化できるかが大きな分岐点となる。
- 削減テクニック:「オンライン申請」や「複数名一括申請」などを活用することで、数万円単位でのコスト削減が可能。
- 隠れコスト:試験の不合格による再受験費用や、地方からの交通・宿泊費など、見落としがちな追加費用にも注意が必要。
この記事では、費用の内訳から具体的なモデルケース、コスト削減の秘訣までを網羅的に解説します。自社の特定技能外国人雇用における、最適で無駄のないコスト管理を実現しましょう。
特定技能ビザ更新に必要な費用一覧
特定技能ビザの更新には、必ずかかる費用と、企業の状況によって変動する費用があります。まずは全体像を把握するために、どのような費用項目があるのかを確認しましょう。
費目 | 費用目安(1名あたり) | 備考 |
---|---|---|
①在留期間更新手数料 | 5,500円~6,000円 | 必須。オンライン申請か窓口申請かで金額が異なる。 |
②登録支援機関への支援委託費 | 月額20,000円~40,000円 | 外部委託する場合に発生。自社支援の場合は不要。 |
③行政書士への申請代行報酬 | 30,000円~60,000円 | 申請手続きを委託する場合に発生。自社申請の場合は不要。 |
④その他経費 | 5,000円~30,000円程度 | 証明写真代、証明書発行料、試験料、交通費など。 |
ご覧の通り、必須費用は6,000円程度ですが、外部サービスを利用すると費用は一気に膨らみます。ここからは、各項目をさらに詳しく分解していきます。
必須:在留期間更新手数料6,000円/試験料・写真代 など
企業の選択に関わらず、ビザ更新において必ず発生する基本的な費用です。特に手数料は法改正により金額が変わるため、常に最新情報を確認する必要があります。
- 在留期間更新許可申請手数料:2025年4月1日の改定により、窓口申請で6,000円、オンライン申請で5,500円となりました。(2025年4月 出入国在留管理庁「在留期間更新案内」)オンライン申請の方が500円安く設定されており、政府がオンライン化を推進していることがわかります。
- 証明写真代:申請書に貼付する顔写真(縦4cm×横3cm)の撮影費用です。一般的に1,000円~2,000円程度かかります。
- 各種証明書発行手数料:住民税の課税・納税証明書や、法人の登記事項証明書などを取得する際に、1通あたり300円~600円程度の手数料がかかります。
- 技能・日本語試験料:更新時に特定の試験合格が必要な場合があります。試験料は分野により異なり、例えばJFT-Basic(日本語基礎テスト)は10,000円、製造分野2号試験は15,000円など、高額なものもあります。
これらの必須費用だけでも、試験が必要な場合は15,000円以上かかる計算になります。計画段階でこれらの実費を正確に把握しておくことが重要です。
登録支援機関 vs 自社支援 コスト比較
特定技能外国人の支援計画実施は法律で義務付けられていますが、その方法は「登録支援機関への委託」と「自社での支援」の2つに分かれます。この選択が、更新コストに最も大きな影響を与えます。
登録支援機関への委託 | 自社支援 | |
---|---|---|
メリット | ・専門的な支援が可能 ・担当者の業務負担軽減 ・法令遵守のリスク低減 |
・大幅なコスト削減 ・社内コミュニケーションの活性化 |
デメリット | ・月額費用が発生する | ・支援担当者の設置が必要 ・専門知識の習得が必要 ・管理工数が増大する |
月額コスト目安 | 20,000円~40,000円/名 | 0円(ただし人件費は発生) |
多くの企業(約8割)が専門性と業務負担軽減を理由に登録支援機関を利用していますが、そのコストは決して小さくありません。
月額支援費 × 更新年数 シミュレーター
登録支援機関への委託費用が、長期間でどれほどの金額になるかシミュレーションしてみましょう。ここでは、出入国在留管理庁の調査による平均月額支援料(約28,000円)を基に計算します。(2022年 出入国在留管理庁「令和4年度調査」)
月額支援費 | 1年間(更新時) | 3年間 | 5年間(通算上限) |
---|---|---|---|
20,000円(安価な場合) | 240,000円 | 720,000円 | 1,200,000円 |
28,000円(平均) | 336,000円 | 1,008,000円 | 1,680,000円 |
40,000円(手厚い場合) | 480,000円 | 1,440,000円 | 2,400,000円 |
このように、1回の更新(1年)だけでも30万円以上の費用が発生する可能性があります。自社で支援体制を構築すればこの費用はゼロになりますが、代わりに担当者の人件費や教育コストという「見えないコスト」が発生することを忘れてはいけません。自社のリソースとコストのバランスを慎重に検討する必要があります。
行政書士・社内対応の費用差
次に、更新申請の書類作成・提出を「行政書士に依頼する」か「社内で行う」かの選択です。これもコストと手間を左右する重要なポイントです。
行政書士への依頼 | 社内対応 | |
---|---|---|
メリット | ・正確で迅速な書類作成 ・申請取次で入管出頭が不要 ・不許可リスクの低減 |
・報酬費用がゼロになる |
デメリット | ・報酬費用が発生する | ・書類作成に時間がかかる ・担当者の知識と経験が必要 ・入管への出頭・待機時間が発生 |
報酬目安 | 30,000円~60,000円/名 | 0円(ただし人件費は発生) |
専門家への依頼は安心感と時間的メリットが大きいですが、その分コストがかかります。特に初めての更新で不安な場合や、担当者のリソースが限られている場合に有効な選択肢です。
依頼時平均報酬/自社申請労務コスト
行政書士に依頼する場合、転職を伴わない単純な更新であれば、報酬相場は1名あたり30,000円~60,000円程度です。日本行政書士会連合会の調査でも、在留資格更新許可申請の全国平均報酬は54,447円となっており、この範囲内に収まります。
一方、社内で対応する場合の労務コストを考えてみましょう。担当者の時給を2,500円と仮定します。
- 書類の収集・作成:8時間
- 出入国在留管理庁への移動・待機・申請:4時間
- 合計所要時間:12時間
この場合、12時間 × 2,500円 = 30,000円 の人件費がかかる計算になります。これはあくまで一例であり、不慣れな担当者であればさらに時間がかかり、結果的に行政書士に依頼するのと同等か、それ以上のコストになる可能性もあります。
3つのモデルケース【シミュレーション】
それでは、ここまでの情報を基に、具体的な3つのモデルケースで更新費用の総額をシミュレーションしてみましょう。自社の状況に最も近いケースを参考にしてください。(※在留期間1年→1年更新、東京都内での手続きを想定)
ケースA:飲食業(1名) | ケースB:介護事業所(3名) | ケースC:製造業(5名) | |
---|---|---|---|
支援体制 | 自社支援 | 登録支援機関 | 登録支援機関 |
申請方法 | 自社申請 | 行政書士依頼 | 行政書士依頼(一括) |
総額(概算) | 59,800円 | 198,000円 | 340,000円 |
ケースA:飲食1名・自社支援→総額59,800円
「更新費用6万円」が現実的となる、最もコストを抑えたモデルです。支援も申請もすべて自社で行います。
- 更新手数料(窓口):6,000円
- 各種証明書発行料:1,800円(法人・個人分合計)
- 担当者の人件費(20時間×時給2,500円):50,000円
- その他経費(写真代など):2,000円
合計:59,800円。このケースでは、人件費という内部コストが費用の大部分を占めます。担当者の知識と時間的余裕が成功の鍵となります。
ケースB:介護3名・登録支援→総額198,000円
専門性を要する介護分野で、一般的な登録支援機関と行政書士を活用するケースです。
- 更新手数料(窓口):6,000円 × 3名 = 18,000円
- 登録支援機関費(更新前後2ヶ月分):28,000円 × 3名 × 2ヶ月 = 168,000円(※支援内容により変動)
- 行政書士報酬:依頼しないため0円(登録支援機関が申請代行する場合が多い)
- その他経費:12,000円(証明書、交通費など)
合計:198,000円(1名あたり66,000円)。ここでは、更新期間中も継続して発生する登録支援機関への費用が大きな割合を占めます。※実際には月額費用は継続して発生しますが、更新手続きに直接関わる費用として期間を区切って算出しています。
ケースC:製造5名・行政書士委託→総額340,000円
複数名を雇用し、管理・申請業務を完全にアウトソースするケースです。一括依頼による割引が期待できます。
- 更新手数料(オンライン):5,500円 × 5名 = 27,500円
- 行政書士報酬(一括割引適用):40,000円 × 5名 = 200,000円
- 登録支援機関費(更新月のみ):28,000円 × 5名 = 140,000円(※ここでは更新手続きに直接かかる費用として1ヶ月分で計上)
- その他経費:5,000円(オンラインのため交通費不要)
合計:372,500円(1名あたり約74,500円)。管理の手間は大幅に削減されますが、コストは最も高額になります。スケールメリットを活かして、行政書士や登録支援機関と料金交渉を行うことが重要です。
コストを抑える5つの実践テクニック
シミュレーションで見たように、更新費用は工夫次第で大きく変動します。ここでは、担当者が今日から検討できる具体的なコスト削減テクニックを5つ紹介します。
グループ申請/オンライン申請/試験免除活用
- ①オンライン申請を徹底活用する:出入国在留管理庁のオンラインシステムを使えば、手数料が500円割引になるだけでなく、入管への往復交通費や半日分の人件費(待機時間含む)をゼロにできます。これは最も手軽で効果的なコスト削減策です。
- ②複数名一括(グループ)で申請する:複数の外国人を雇用している場合、行政書士に一括で依頼することで「2人目以降割引」が適用されることが多くあります。相見積もりを取る際に、一括依頼の前提で交渉してみましょう。
- ③書類省略規定をフル活用する:2回目以降の更新では、過去に提出した登記事項証明書や決算書類などを省略できる場合があります。これにより、書類の取得費用と準備の手間を削減できます。
- ④試験免除の条件を確認する:技能実習2号を良好に修了した人材は、多くの場合、特定技能移行時の技能試験と日本語試験が免除されます。採用段階からこの点を考慮することで、1人あたり1万~2万円の試験関連費用を削減できます。
- ⑤自社支援体制を段階的に構築する:すぐに完全な自社支援が難しくても、定期面談や生活相談など、一部の支援業務から内製化を始めることで、登録支援機関への委託費用を減額できる可能性があります。機関と相談し、支援内容をカスタマイズできないか検討しましょう。
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注意!コストを膨らませる3つの落とし穴
計画通りに進めても、予期せぬトラブルで費用が膨らんでしまうことがあります。ここでは、特に注意すべき3つの「コストの落とし穴」を解説します。
試験不合格→再受験/支援計画不備/交通宿泊費
- ①試験不合格による再受験コスト:特定技能の試験は、分野によって合格率が大きく異なります。例えば、JFT-Basicの合格率は約33%、特定技能2号試験の中には合格率が10%未満のものもあります。不合格になると、数万円の受験料と交通費が再度必要になる上、45日間の再受験禁止期間があるため、在留期限に影響が出るリスクもあります。
- ②支援計画の不備による差戻し・追加費用:提出した支援計画書に不備があると、行政から差戻しを受け、修正のために追加の時間と労力がかかります。特に建設業など分野特有の要件がある場合、計画認定の修正に行政書士への追加報酬(8万~10万円程度)が発生した事例もあります。
- ③見落としがちな交通・宿泊費:地方に事業所がある場合、最寄りの出入国在留管理庁や試験会場まで長距離の移動が必要になることがあります。往復の新幹線代や宿泊費を含めると、1回の申請や受験で数万円の追加コストが発生するケースも少なくありません。
これらのリスクを避けるためにも、事前の十分な準備と、必要に応じた専門家の活用が重要です。
よくある質問(Q&A)
最後に、特定技能のビザ更新に関して人事担当者からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 更新申請はいつから準備すればいいですか?
A1. 在留期限の3ヶ月前から申請可能ですが、書類準備には時間がかかるため、4ヶ月前からの準備開始を強く推奨します。特に、納税証明書などの公的書類は取得に時間がかかる場合があるため、早めに着手しましょう。
Q2. やはり自分で申請するのは難しいですか?
A2. 不可能ではありません。しかし、特定技能の申請書類は30種類近くに及ぶこともあり、専門的な知識が求められます。書類の不備で不許可になるリスクや、担当者の多大な時間的コストを考慮すると、初回は行政書士などの専門家に依頼するのが安心です。
Q3. 登録支援機関は途中で変更できますか?
A3. はい、変更は可能です。ただし、新たな支援機関との契約後、14日以内に出入国在留管理庁へ「支援委託契約の終了・締結に関する届出」を提出する必要があります。引継ぎがスムーズに行えるよう、現在の機関と新しい機関との間でよく連携することが重要です。
Q4. 更新が不許可になるのは、どのような場合ですか?
A4. 主な不許可の理由として、①税金や社会保険料の未納、②労働関係法令の違反、③提出書類の不備や虚偽記載、④本人の素行不良(犯罪など)が挙げられます。特に公的義務の履行は厳しく審査されるため、日頃からの適切な労務管理が不可欠です。
まとめ
本記事では、特定技能外国人のビザ更新費用について、「6万円」という説の検証から具体的なシミュレーション、コスト削減策までを詳細に解説しました。結論として、特定技能の更新費用は企業の選択次第で大きく変動します。
自社で全ての申請を完結させれば6万円程度に抑えることも可能ですが、多くの企業では登録支援機関や行政書士を活用し、1名あたり10万円以上のコストがかかるのが実態です。重要なのは、自社のリソース(人材、時間、知識)と外部委託コストを天秤にかけ、最適な方法を選択することです。
まずは、この記事のシミュレーションを参考に自社の更新費用を算出し、予算計画を立ててみてください。そして、オンライン申請や一括申請といったテクニックを積極的に活用し、賢くコストを管理していくことが、今後の安定的な外国人雇用につながる第一歩となるでしょう。
よくある質問
- 6万円で本当に足りますか?
オンライン申請・自社支援・試験合格1回が前提なら収まります。再受験や登録支援機関委託がある場合は追加費用が発生します。 - 3年ビザ更新でも同額ですか?
更新手数料は期間にかかわらず同額ですが、登録支援機関や社内支援の費用は年数×月額で増えます。3年なら月額支援費用が36か月分必要です。 - 支援機関を途中で変更できますか?
変更は可能ですが、出入国在留管理庁ガイドラインに従い届出が必要で、手数料や新契約締結費がかかる点に注意してください。 - 行政書士と社労士のどちらに依頼すべきですか?
在留資格更新は行政書士が専門で、社会保険手続きは社労士の領域です。更新だけなら行政書士、労務管理も包括するなら両者の協業がベストです。 - オンライン申請の準備に何が必要ですか?
事前にオンライン申請利用申出を入管に提出し、承認後にID・パスワードを取得します。電子証明書は不要ですが、公式マニュアルの推奨環境を確認してください。
参考サイト
- 出入国在留管理庁|在留手続の手数料改定(2025年4月1日施行) ― 手数料6,000円/5,500円の公式ソース
- Global Staff Manzoku|登録支援機関の月額支援費用平均28,386円 ― 出入国在留管理庁調査を解説
- ビザサポートセンター|特定技能更新を行政書士に委託する場合の報酬相場 ― 更新3万円・5万円など具体的料金表
- 国際交流基金|JFT-Basic受験料10,000円の公式パンフレット ― 日本語基礎テストの費用根拠
- 行政書士法人DSG|オンライン申請は窓口より500円安い ― オンライン申請割引の詳細解説
初心者のための用語集
- 特定技能:深刻な人手不足分野で働く外国人向けの在留資格。1号は最長5年、2号は更新無制限。
- 在留期間更新手数料:ビザの有効期限を延長する際に入管へ支払う費用。窓口6,000円・オンライン5,500円(2025年改訂)。
- オンライン申請:Webシステム経由でビザ手続きを行う方法。窓口より手数料が500円安く交通費も不要。
- 窓口申請:入管の窓口で書類を提出する従来方式。交通費や待ち時間が発生する。
- 登録支援機関:外国人の生活支援を代行する機関。月額2〜4万円程度の委託費がかかる。
- 自社支援:受入企業が社内で生活支援を実施する方式。通訳手当などの実費で済む。
- 行政書士:在留資格の申請書類を作成・代理提出できる国家資格者。報酬は3〜6万円が相場。
- 社労士:社会保険・労務管理を専門とする国家資格者。ビザ更新自体は扱わないが労務手続きを担当。
- JFT-Basic:日本語基礎テスト。合格率33%で受験料は1万円。特定技能1号の日本語要件として利用。
- 試験免除制度:技能実習2号を良好に修了した場合など、特定技能試験が免除される特例。
