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この記事の要点・結論
2025年4月の法改正により、飲食店の特定技能外国人材の受入れルールが大きく変わりました。この記事では、飲食店オーナーや人事担当者が知るべき最新の要件、手続き、費用、そして採用後の管理方法までを網羅的に解説します。
今回の改正の核心は、手続きのオンライン化による効率化と、地域社会との共生を促す支援体制の強化です。特に、風営法許可を受けた旅館・ホテルでの就労解禁は大きな変更点ですが、それに伴い企業の責任も重くなっています。
この記事を最後まで読めば、改正後の新制度に完全対応し、計画的に、そしてコンプライアンスを遵守しながら外国人材を採用・育成するための具体的なロードマップが手に入ります。人手不足解消の切り札となる特定技能制度を最大限に活用するための、実践的な知識を身につけましょう。
2025年4月改正のポイントを3分で把握
今回の制度改正は多岐にわたりますが、飲食店が押さえるべき重要な変更点は主に以下の5つです。これらは業務の効率化と、受入れ企業の責任強化が両立する内容となっています。
- 届出・申請手続きの合理化:これまで四半期ごとだった定期届出が年1回に変更され、オンライン申請の活用で一部書類の提出が省略可能になりました。これにより、事務負担が大幅に軽減されます。
- 風営法許可施設での就労解禁:2025年5月30日から、一定の条件下で風営法の許可を受けた旅館・ホテル等での就労が可能になりました。ただし、接待行為を防止する厳格な措置が義務付けられています。
- 支援計画と地域連携の強化:支援計画に「地方公共団体の共生施策を踏まえた内容」を盛り込むことが義務化されました。また、市区町村へ「協力確認書」を提出する必要があり、地域社会との連携がより重視されます。
- 届出義務の範囲拡大:税金・社会保険料の滞納や非自発的離職者の発生時など、企業のコンプライアンス違反が届出対象に追加されました。受入れ機関としての適格性がより厳しく問われます。
- オンライン面談の容認:本人同意などの条件下で、外国人材との定期面談をオンラインで実施できるようになり、支援の柔軟性が向上しました。
これらの変更は、2025年4月1日付の出入国在留管理庁の通達や、2025年5月30日付の農林水産省告示などに基づいています。より詳細な情報はJITCO(国際人材協力機構)の通知などで確認できます。
特定技能(外食業分野)とは?基礎知識まとめ
特定技能(外食業分野)は、深刻な人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を持つ外国人材の受入れを目的とした在留資格です。技能実習制度とは異なり、即戦力となる人材を労働者として直接雇用する制度であることが最大の特徴です。
在留資格の位置づけ・受入れ人数・技能測定試験
特定技能(外食業)で働くためには、日本語能力と専門技能の両方を証明する試験に合格する必要があります。受入れ可能な業務内容や人数枠も定められています。
項目 | 内容 |
---|---|
対象業務 | 飲食物調理、接客、店舗管理(原材料の仕入れ、従業員の労務管理、メニュー開発などを含む) |
在留期間 | 特定技能1号:通算で上限5年(1年、6か月又は4か月ごとの更新) 特定技能2号:上限なし(3年、1年又は6か月ごとの更新、家族帯同も可能) |
受入れ人数枠 | 事業所単位での上限はなし。ただし、企業単位で常勤職員数を超えないこと。 |
必要な試験(1号) | 1. 技能試験:「外食業技能測定試験」に合格 2. 日本語試験:「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」A2レベル以上、または「日本語能力試験(JLPT)」N4以上に合格 |
管轄省庁 | 農林水産省(公式サイト) |
特定技能2号へ移行するには、より高度な技能測定試験に合格し、複数名を指導・監督しながら業務に従事した実務経験が求められます。2025年5月30日の改正で、この実務経験の有効期間が「終了から基本5年以内」と明確化されました。
改正後の受入れ要件【チェックリスト】
2025年4月の改正を受けて、特定技能外国人を受け入れる企業(特定技能所属機関)が満たすべき要件がより具体的かつ厳格になりました。以下のチェックリストで自社の体制を確認しましょう。
- □ 日本人と同等額以上の報酬を支払う雇用契約を締結しているか?
- □ 労働保険(労災・雇用保険)および社会保険(健康保険・厚生年金)に適切に加入しているか?
- □ 過去5年間に労働法規や入管法に関する重大な違反がないか?
- □ 外国人材を支援する体制(自社支援 or 登録支援機関への委託)が整っているか?
- □ 【新要件】税金や社会保険料の滞納はないか?
- □ 【新要件】外国人が活動する市区町村の「共生施策」を把握し、支援計画に反映しているか?
賃金同等性/労災加入/支援計画義務化
特定技能外国人の受入れで最も重要なのは、日本人従業員との差別的取扱いをしないことです。報酬額はもちろん、福利厚生の適用においても同等の待遇を保証する必要があります。
また、改正で特に重要度が増したのが「支援計画」です。これまでは基本的な生活支援が中心でしたが、2025年4月1日施行の省令改正により、地域社会への円滑な統合を促す内容が義務付けられました。
支援項目 | 具体的な内容 | ポイント |
---|---|---|
事前ガイダンス | 雇用条件、活動内容、来日手続き等について、本人が理解できる言語で説明(3時間以上)。 | オンラインでの実施も可能。 |
生活オリエンテーション | 日本のルール、交通機関、医療機関、災害時の対応などについて説明(8時間以上)。 | 母国語での実施が必須。 |
地域との共生支援 | 地域のイベントや日本語教室の情報提供、自治会への参加補助など。 | 新設された義務。市区町村への「協力確認書」の提出も必要。 |
定期的な面談 | 本人およびその監督者と3か月に1回以上面談を実施し、労働状況や生活の悩みを確認。 | 一定条件下でオンライン面談が可能に。 |
これらの支援を自社で行うのが難しい場合は、国から認定を受けた「登録支援機関」に全ての支援業務を委託することができます。多くの飲食店では、この登録支援機関を活用しています。
手続きフロー:求人開始→在留許可取得までの全工程
特定技能外国人を採用するには、国内在住者を探す場合と、海外から新たに呼び寄せる場合の2つのルートがあります。ここでは、採用決定から就労開始までの一般的な流れを解説します。
1. 試験合格者リスト検索 → 2. 内定 → 3. 支援計画作成 → 4. 出入国在留管理庁オンライン申請 → 5. 在留カード交付
採用プロセスは複数のステップに分かれており、全体で3か月から半年程度の期間を見込むのが一般的です。
ステップ | 主な活動内容 | 期間の目安 | 注意点 |
---|---|---|---|
1. 求人・マッチング | 人材紹介会社やハローワークを通じて候補者を探し、面接を実施。 | 1~2か月 | 候補者の日本語レベルや調理・接客スキルをしっかり見極める。 |
2. 内定・雇用契約締結 | 労働条件を明示した雇用契約書を締結。 | 1週間 | 報酬額が同職種の日本人と同等以上であることを確認。 |
3. 支援計画の作成 | 受入れ企業または登録支援機関が、10項目の義務的支援を含む支援計画を作成。 | 1~2週間 | 2025年改正の新要件(地域共生連携など)を必ず盛り込む。 |
4. オンライン申請 | 「在留申請オンラインシステム」で在留資格認定証明書交付申請(海外在住者)または在留資格変更許可申請(国内在住者)を行う。 | 申請後1~3か月 | 2025年4月以降、原則オンライン申請。書類はPDF化して添付。 |
5. 許可・在留カード交付 | 許可後、認定証明書を本人に送付(海外在住者)。来日後、空港で在留カードが交付される。国内在住者は入管で手続き。 | 2~4週間 | 在留カード交付後、14日以内に市区町村役場で住民登録が必要。 |
特にステップ4のオンライン申請は、2025年4月から始まった「Immigration e-Application System」を利用します。事前に利用者登録(マイナンバーカードとICカードリーダライタが必要)を済ませておくとスムーズです。システム上では、申請者情報、所属機関情報、活動内容などを入力し、必要書類をPDF(1ファイル10MB以下)でアップロードします。
必要書類と最新様式(2025-04版)
在留資格の申請には多くの書類が必要ですが、オンライン申請の利用や、企業のカテゴリー(規模やコンプライアンス状況による区分)によって提出書類が一部簡素化されます。ここでは、標準的な必要書類リストを紹介します。
申請書・雇用契約書・支援計画書類一式
全ての書類は、出入国在留管理庁の公式サイトから最新の様式をダウンロードして使用してください。
- 申請書関連
- 在留資格認定証明書交付申請書(または在留資格変更許可申請書)
- 特定技能外国人の報酬に関する説明書
- 特定技能雇用契約書の写し
- 受入れ機関(自社)に関する書類
- 登記事項証明書、決算書類の写し
- 労働保険・社会保険に関する証明書類
- 特定技能所属機関概要書
- 外国人本人に関する書類
- パスポート及び在留カードの写し(国内在住者の場合)
- 技能試験および日本語試験の合格証明書の写し
- 履歴書
- 支援に関する書類
- 特定技能外国人支援計画書
- 登録支援機関との支援委託契約書の写し(委託する場合)
2025年4月の改正で、定期届出の様式が「受入れ・活動・支援実施状況届出書」(参考様式第3-6号)に統合されるなど、一部書式が変更されています。必ず最新の情報を確認し、古い様式を使わないよう注意が必要です。
実例で見るコスト&スケジュール
特定技能外国人を1名採用する場合、どれくらいの費用と期間がかかるのでしょうか。ここでは、店舗の規模や採用ルートに応じた2つのモデルケースを紹介します。
都内ラーメン店:1名採用 総費用42万円/取得期間90日
国内に在住している転職希望の特定技能外国人を1名採用するケースです。渡航費がかからず、比較的スピーディーに進められます。
費用項目 | 金額(目安) | 備考 |
---|---|---|
人材紹介手数料 | 200,000円 | 国内人材紹介会社への成功報酬 |
在留資格申請代行費用 | 120,000円 | 行政書士への委託料(在留資格変更許可申請) |
登録支援機関 契約金 | 50,000円 | 支援委託契約時の初期費用 |
住居初期費用等 | 50,000円 | 保証会社利用料など |
初期費用 合計 | 420,000円 | |
月額支援委託料 | 30,000円/月 | 登録支援機関への月額フィー |
【期間】 | 約90日 | 内定から在留カード交付まで |
地方カフェチェーン:3名採用 総費用110万円/取得期間120日
海外から新たに3名の特定技能外国人を採用するケースです。渡航費や海外の送出機関への手数料が発生するため、初期費用は高くなります。
費用項目 | 金額(目安) | 備考 |
---|---|---|
人材紹介・送出機関手数料 | 300,000円 x 3名 = 900,000円 | 海外送出機関への支払を含む |
在留資格申請代行費用 | 80,000円 x 3名 = 240,000円 | 行政書士への委託料(複数名割引適用) |
登録支援機関 契約金 | 30,000円 x 3名 = 90,000円 | 複数名割引適用 |
渡航費 | 80,000円 x 3名 = 240,000円 | 航空券代(企業負担が一般的) |
初期費用 合計 | 1,470,000円 | |
月額支援委託料 | 25,000円 x 3名 = 75,000円/月 | 複数名割引適用 |
【期間】 | 約120日 | 内定から来日・就労開始まで |
これらはあくまでモデルケースです。実際には、登録支援機関の料金体系や、住居を自社で用意するかどうかなどで総費用は変動します。採用計画を立てる際は、複数の機関から見積もりを取ることをお勧めします。
ビザ更新・転職・失踪リスクへの対応
特定技能外国人を採用した後は、安定して長く働いてもらうための管理が重要になります。在留資格の更新、転職への対応、そして万が一の失踪リスクについて正しく理解しておきましょう。
特定技能制度では、労働者がより良い条件を求めて転職することが認められています。これが、労働環境の劣悪さから失踪せざるを得なかった技能実習制度との大きな違いです。
事実、2023年の特定技能(外食業)における失踪率は約0.14%(2023年末在留者数13,312人に対し失踪者19人)と、技能実習制度に比べて極めて低い水準です。これは、転職の自由がセーフティネットとして機能している証拠と言えます。
一方で、これは従業員が他社に流出するリスクも意味します。優秀な人材に長く定着してもらうためには、日本人従業員と同様に、適切な賃金、良好な職場環境、キャリアアップの機会などを提供することが不可欠です。万が一、賃金未払いや過重労働などの法令違反が発覚した場合、2025年5月に改善命令が出されたシャトレーゼ社の事例のように、企業の受入れ資格が取り消される厳しい処分が下される可能性もあります。
よくある質問(Q&A)
特定技能(外食業)に関して、現場の担当者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1. 登録支援機関に委託せず、自社で支援を行うことはできますか?
A1. はい、可能です。ただし、支援責任者と支援担当者を任命し、過去2年間に中長期在留者の生活相談業務に従事した経験があるなどの要件を満たす必要があります。多くの企業は専門知識を持つ登録支援機関に委託しています。
Q2. 風俗営業の許可を受けている飲食店(例:深夜にお酒を提供するバー)でも採用できますか?
A2. 2025年5月30日の改正により、接待行為を伴わないことを条件に、風営法許可を受けた施設(旅館・ホテルを含む)での就労が解禁されました。ただし、接待防止マニュアルの作成、相談体制の整備、誓約書の提出などが厳格に義務付けられており、これらを遵守しない場合は外食業特定技能協議会から除名され、受入れができなくなります。
Q3. 特定技能外国人に残業や休日出勤をさせることはできますか?
A3. はい、可能です。ただし、労働基準法に基づき、36協定を適切に締結し、割増賃金を正しく支払うことが絶対条件です。サービス残業や不当な労働時間の強要は、重大な法令違反として厳しい処分の対象となります。
Q4. 特定技能2号になると何が変わりますか?
A4. 特定技能2号は、熟練した技能を持つ人材向けの在留資格です。在留期間の更新に上限がなくなり、要件を満たせば配偶者や子供などの家族を日本に呼び寄せることが可能になります。企業にとっては、永続的な戦力として活躍してもらえるメリットがあります。
まとめ
本記事では、2025年4月の改正に対応した特定技能(外食業)の最新要件と手続きについて、網羅的に解説しました。今回の改正は、外国人材の受入れを効率化する一方で、受入れ企業に対してより重い社会的責任とコンプライアンス遵守を求めるものです。
手続きのオンライン化や届出の簡素化は、日々の業務に追われる飲食店にとって朗報です。しかし、それと同時に、地域社会との共生や適正な労働条件の確保といった、受入れ機関としての責務を全うしなければ、資格を失うリスクもあります。
特定技能制度は、もはや単なる人手不足対策ではありません。外国人材を貴重なパートナーとして迎え入れ、共に成長していくという視点が不可欠です。本ガイドを参考に、法令を遵守した計画的な採用活動を進め、お店の未来を担う素晴らしい人材との出会いを実現してください。
よくある質問
- 試験合格証の有効期限は?
合格日から2年以内に申請が必要です。詳細は
外食業技能試験公式サイト
を参照してください。 - 1号から2号へ移行する条件は?
外食業で実務経験5年以上を積み、2号技能試験に合格する必要があります。
試験日程は
こちら
で確認できます。 - 雇用契約中に店舗異動はできますか?
同一法人内の異動は入管への届出のみで可能ですが、法人をまたぐ場合は
転職扱いとなり在留変更許可申請が必要です。 - 支援計画のオンライン面談は録画必須ですか?
はい。オンライン面談時は録画保存し、求めがあれば提出できる体制が
必要です。最新ガイドラインは
JITCO
に掲載されています。
参考サイト
- 出入国在留管理庁「外食業分野における特定技能」 ― 受入れ枠・基準・最新告示を公式で確認できます。
- 農林水産省「外食業分野における外国人材の受入れ」 ― 技能測定試験要領やガイドライン全文を掲載。
- 出入国在留管理庁「在留申請オンラインシステム」 ― 電子申請マニュアルや操作ガイドをダウンロード可能。
- 参考様式第3-6号「受入れ・活動・支援実施状況届出書」 ― 年1回届出で使用する最新様式PDF。
- OTAFF「外食業特定技能技能測定試験 国内試験情報」 ― 試験日程・合格発表スケジュールを随時更新。
初心者のための用語集
- 特定技能1号 ― 最大5年間まで在留できる外食業など14分野の即戦力人材向けの在留資格。家族帯同は不可。
- 特定技能2号 ― 1号で一定の実務経験と上位試験に合格した人が取得できる上位資格。更新回数の制限がなく、家族帯同も可能。
- 支援計画 ― 生活オリエンテーションや母国語相談窓口など、受入れ企業が外国人に提供するサポート内容をまとめた義務書面。
- 登録支援機関 ― 支援計画を企業から委託されて実施する外部専門機関。委託費用は月2〜4万円が一般的。
- JFT-Basic ― 日本語能力テスト「国際交流基金JFT-Basic」。N4相当で特定技能の日本語要件を満たす。
- Immigration e-Application System ― 2025年4月から原則化された入管のオンライン申請システム。窓口より手数料が500円安い。
- 取次者 ― 行政書士や所属機関職員など、在留手続きを本人に代わって申請できる公的な代理人。
- 協力確認書 ― 市区町村に提出する文書で、地域共生施策に協力することを約束する。2025年4月改正で必須化。
- 受入れ・活動・支援実施状況届出書 ― 年1回提出する定期届出書類。旧「受入れ状況届出書」と「支援実施状況届出書」を統合した新様式。
- 在留資格認定証明書交付申請 ― 海外在住者を新規採用する際に必要な最初の入管手続き。略称「COE申請」。
