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この記事の要点と結論
結論:在留資格・雇用契約・労務管理・教育体制の4点を守れば違反リスクは防げます
飲食店で外国人スタッフを採用する際、多くの経営者が不安に感じるのは「法律違反で罰せられるのではないか」という点です。実は、きちんとしたルールさえ押さえれば、外国人採用は決して難しくありません。
- 在留カード確認と就労制限の理解が必須です。偽造カードの見抜き方や在留期限管理を徹底しましょう。
- 契約書・給与明細・勤務記録は日本語に加えて母語でも明確にすることで、後のトラブルを防げます。
- 教育・安全・ハラスメント防止まで含めた全体設計が重要で、文化の違いを理解した職場づくりが定着率を高めます。
- 2025年6月から不法就労助長罪の罰則が5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金に厳罰化されており、「知らなかった」では済まされません。
飲食業における外国人就労の基本ルール
飲食店で外国人を雇用する場合、入管法や労働基準法など複数の法律が関係します。ここでは最も重要な3つの確認事項を解説します。
雇用主が必ず確認すべき3つの義務
項目 | 根拠法令 | 要点 | 罰則・リスク |
---|---|---|---|
在留カード確認 | 入管法第19条の16 | 原本確認、有効期限、就労制限の有無を確認 | 不法就労助長罪:5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金 |
雇用状況届出 | 雇用対策法第28条 | 雇入れ・離職時にハローワークへ届出 | 30万円以下の罰金 |
社会保険加入 | 健康保険法、厚生年金保険法 | 適用事業所は国籍問わず加入義務 | 各種保険料の追徴、事業所名公表 |
出典:厚生労働省「外国人雇用はルールを守って適正に」令和7年版(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/index.html)取得:2025年10月
- 在留カードの確認義務は全ての雇用主に課されており、偽造カードを見抜けなかった場合も処罰対象となります。出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」システムで有効性を確認しましょう。
- 雇用保険の被保険者となる外国人を雇い入れた場合は翌月10日まで、被保険者とならない場合は翌月末日までにハローワークへ届出が必要です。
- 週20時間以上かつ31日以上雇用する見込みがあれば雇用保険、常時雇用の場合は健康保険・厚生年金の加入が義務となり、外国人も日本人と同じ扱いです。
2025年の法改正で何が変わったか
2025年は外国人雇用に関する法律が大きく変わった年です。特に罰則の強化が目立ちます。
- 不法就労助長罪の厳罰化:従来の「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」から「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」に引き上げられました(2025年6月1日施行)。
- 永住許可制度の適正化:入管法上の義務違反や税金・社会保険料の未払いが在留資格取消の理由に追加されました。
- 技能実習制度から育成就労制度への移行決定:2027年4月から新制度が始まり、転職制限が大幅に緩和されます。
出典:出入国在留管理庁「令和6年入管法等改正について」(https://www.moj.go.jp/isa/policies/bill/kaisei_index.html)取得:2025年10月
採用前に確認すべき在留資格と業務範囲
外国人が日本で働くには、就労が認められた在留資格が必要です。飲食業で雇える在留資格は限られており、間違えると不法就労助長罪に問われます。
飲食店で働ける主な在留資格
在留資格 | できる業務 | 禁止業務 | 在留期間 | 時間制限 |
---|---|---|---|---|
特定技能1号(外食業) | 調理、接客、店舗管理、デリバリー | 風俗営業での接待 | 通算最長5年 | 制限なし |
特定技能2号(外食業) | 1号業務+監督・指導・経営業務 | 風俗営業での接待 | 無期限(更新可) | 制限なし |
技術・人文知識・国際業務 | 本社管理業務、マネジメント | ホール業務、調理等の現場作業 | 3ヶ月~5年 | 制限なし |
技能 | 外国料理の調理のみ | ホール業務、日本料理の調理 | 3ヶ月~5年 | 制限なし |
留学(資格外活動許可) | 週28時間以内のアルバイト | 風俗営業関連業務 | 在留期間内 | 週28時間以内 |
永住者・日本人の配偶者等 | 制限なし | 法令で禁止される業務のみ | 永住者は無期限 | 制限なし |
条件:飲食業における就労可否。出典:出入国在留管理庁「在留資格一覧表」(https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/nyuukokukanri07_00045.html)、法務省「特定技能外食業分野」(https://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/foodservice.html)取得:2025年10月
在留資格ごとの注意点
- 特定技能1号(外食業)は飲食店での調理・接客業務が可能で、即戦力として期待できます。ただし風俗営業の許可を受けた店舗での接待行為は禁止されています。
- 技術・人文知識・国際業務での採用時は要注意です。マネジメント業務のみが認められ、ホールや調理などの現場作業は一切できません。兼業も認められていないため、人手不足時に「ちょっと手伝って」と現場に入れると違法になります。
- 留学生のアルバイトは週28時間以内が鉄則です。長期休暇中は1日8時間まで可能ですが、複数店舗でのかけもち勤務の場合は合算時間で計算します。繁忙期に超過させると不法就労助長罪の対象となります。
- 技能の在留資格で働く外国人料理人は、10年以上の実務経験を持つプロフェッショナルです。ただし専門とする外国料理の調理のみが認められ、ホール業務や日本料理の調理はできません。
在留カード確認の実務手順
採用面接時には必ず在留カードの原本を確認し、以下の点をチェックします。
- 表面の在留資格欄で就労可能な資格かどうかを確認
- 在留期限が切れていないか、採用予定期間をカバーしているかを確認
- 裏面の「就労制限の有無」欄を確認(「就労不可」の記載がある場合は資格外活動許可の有無を確認)
- 出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」で有効性を確認(https://lapse-immi.moj.go.jp/)
出典:出入国在留管理庁「在留カード等番号失効情報照会」(https://www.moj.go.jp/isa/applications/disclosure/120424_01.html)取得:2025年10月
求人・面接での注意点
外国人採用の入り口である求人・面接段階でも、守るべきルールがあります。差別的な対応は法律違反となり、企業イメージを大きく損ないます。
やってはいけない行為と推奨対応
工程 | やってはいけない行為 | 推奨対応 | 根拠 |
---|---|---|---|
求人票作成 | 「○○人限定」「日本人のみ」などの国籍限定表記 | 職務に必要な日本語能力レベルを明示 | 労働基準法第3条(国籍による差別禁止) |
面接 | 宗教・出身地・家族構成など業務に無関係な質問 | 在留資格、就労制限、日本語能力の確認に限定 | 職業安定法第5条の4(均等待遇) |
採否決定 | 能力が同等でも国籍を理由に不採用 | 能力・適性のみで公平に判断 | 労働施策総合推進法第9条 |
労働条件提示 | 「外国人だから時給を下げる」など差別的条件 | 日本人と同一の基準で労働条件を設定 | 労働基準法第3条 |
出典:厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gaikokujin13/sisin01.html)取得:2025年10月
- 国籍による差別は労働基準法で明確に禁止されています。求人票に「日本人のみ」と記載したり、面接で国籍を理由に採否を決めることは違法です。
- 面接では業務に必要な能力の確認に徹しましょう。在留資格や就労制限の確認は必要ですが、宗教や家族構成など業務に無関係な個人情報を聞くことは避けるべきです。
- 時給や給与は国籍に関係なく、能力や経験に応じて公平に決定します。「外国人だから安く雇える」という考え方は違法であり、後のトラブルの原因になります。
- 求人票に記載する労働条件は正確に書きましょう。「週28時間以上のシフトを組む」と書いてしまうと、留学生は応募できなくなります。
面接時のコミュニケーション工夫
日本語が完璧でない外国人との面接では、相手の理解度を確認しながら進めることが重要です。
- 専門用語や業界用語は避け、簡単な日本語で説明する
- 重要な労働条件は口頭だけでなく書面でも示す
- 理解したかどうか、相手に復唱してもらって確認する
- 必要に応じて翻訳ツールや通訳を活用する
雇用契約・労務管理の落とし穴
採用が決まったら、次は雇用契約と日々の労務管理です。ここでのミスが最も行政指導につながりやすく、注意が必要です。
典型的なミスと防止策
論点 | 典型ミス | 防止策 | 違反時のリスク |
---|---|---|---|
契約書 | 日本語のみで作成、交付しない | 日本語と母語の併記版を作成し必ず交付 | 労働基準法違反:30万円以下の罰金 |
労働時間管理 | 留学生の週28時間超過、36協定未締結での残業 | タイムカード管理徹底、複数バイト先の合算確認 | 不法就労助長罪:5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金 |
賃金支払い | 残業・休日手当の未払い、最低賃金違反 | タイムカードと給与明細の突合確認、2025年度最低賃金遵守 | 労働基準法違反:50万円以下の罰金、未払金の追徴 |
書類保管 | パスポート・在留カードの不当保管、返却拒否 | 確認時にコピーのみ保管、原本は即座に返却 | 旅券等不正受交付罪の幇助、損害賠償請求 |
出典:厚生労働省「労働基準法のあらまし」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/index.html)、出入国在留管理庁「在留カード確認方法」取得:2025年10月
雇用契約書作成の実務ポイント
- 労働条件通知書は法律で交付が義務付けられています。口頭での説明だけでは不十分で、書面での交付が必要です。
- 外国人労働者の場合は、日本語に加えて母語でも契約内容を説明することが望ましいとされています。厚生労働省のウェブサイトで多言語の雇用契約書ひな形が公開されています。
- 在留資格に関する特約条項を入れましょう。「在留資格が取得できない場合または更新できない場合は、この契約は無効となる」といった文言を加えておくと、後のトラブルを防げます。
- 契約書には就業場所、業務内容、就業時間、休日、賃金、退職に関する事項を必ず明記します。
労働時間管理の落とし穴
飲食業界で最も多い違反事例が、留学生の労働時間超過です。
- 留学生は週28時間以内の就労制限があります。これは1週間あたりの上限であり、1日の上限ではありません。
- 複数のアルバイト先で働いている場合、合算して週28時間以内に収める責任は外国人本人だけでなく、雇用主にもあります。面接時に他のバイト先での勤務時間を確認しましょう。
- 長期休暇中(春休み・夏休み・冬休み)は1日8時間まで可能ですが、この場合も週40時間が上限の目安となります。
- 実際の事例では、ラーメンチェーン「一蘭」が留学生を週28時間を超えて働かせたとして、社長や店長ら7名が書類送検されています(2018年)。
給与計算と社会保険の実務
外国人労働者の給与計算は、日本人と全く同じルールが適用されます。
- 2025年度の最低賃金は全国平均で時給1,118円です(2025年10月以降順次引き上げ)。東京都は1,226円、神奈川県は1,225円など、都道府県ごとに異なります。
- 時間外労働(1日8時間、週40時間を超える労働)には25%以上の割増賃金が必要です。深夜労働(午後10時から午前5時)にはさらに25%以上の割増が必要です。
- 社会保険(健康保険・厚生年金)は、適用事業所で働く常時雇用の労働者に加入義務があり、国籍は関係ありません。
- 雇用保険は、週20時間以上かつ31日以上雇用する見込みがあれば加入対象です。
出典:厚生労働省「令和7年度地域別最低賃金改定状況」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html)取得:2025年10月
パスポート・在留カードの取扱い
外国人のパスポートや在留カードを会社が預かることは、原則として違法です。
- 確認のために一時的に預かることは問題ありませんが、確認後は速やかに本人に返却する必要があります。
- 「逃げられないように」という理由で保管することは、旅券等不正受交付罪の幇助にあたる可能性があります。
- 必要なのはコピーの保管です。在留カードの両面をコピーし、雇用記録として保管しましょう。
研修・教育・ハラスメント防止
外国人スタッフが安心して働ける環境を作るには、適切な教育と文化的配慮が欠かせません。ここを疎かにすると、早期離職やクレームの原因になります。
法的義務と具体策
テーマ | 法的根拠 | 具体策 | 実施しない場合のリスク |
---|---|---|---|
安全衛生教育 | 労働安全衛生法第59条 | 多言語による雇入れ時教育、危険設備の使用方法説明 | 労働災害発生時の企業責任、行政指導 |
業務研修 | 外国人雇用管理指針 | 写真・動画マニュアル、母語でのOJT資料作成 | 業務品質低下、顧客クレーム増加 |
ハラスメント防止 | 労働施策総合推進法第30条の2 | 相談窓口設置、多言語対応、定期的な啓発研修 | 企業名公表、損害賠償請求 |
文化的配慮 | 外国人雇用管理指針 | 宗教・習慣への理解、食事制限への対応 | 職場環境悪化、定着率低下 |
出典:厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」、労働安全衛生法、労働施策総合推進法 取得:2025年10月
効果的な多言語教育の実践例
言葉の壁を乗り越える工夫が、教育の成否を分けます。
- 動画マニュアルの活用:WriteVideoなどの多言語動画教材を導入した飲食店では、教育時間が50%短縮され、サービス成長率150%を記録した事例があります。
- 写真付きマニュアル:川崎市の大衆居酒屋「やきとん まるきち」では、写真付きマニュアルとLINE翻訳、ベトナム語POPの併用により、指示が伝わりやすくなりました。
- 段階的育成システム:基本オペレーションを2〜3分の短い動画マニュアル約30本に分割し、スマートフォンで視聴・確認テスト合格後に初出勤するルールを構築した居酒屋チェーンでは、集合研修の回数を8割削減し、年間で数百万円のコストカットに成功しています。
- 厚生労働省のウェブサイトでは、14言語対応の安全衛生教育教材が無料で公開されています。
ハラスメント防止体制の構築
2022年4月から、中小企業も含む全事業主にパワーハラスメント防止措置が義務化されました。
- 相談窓口の設置:企業規模に関わらず全事業主に設置義務があります。外国語対応できる窓口が理想ですが、難しい場合は翻訳ツールや外部の多言語相談サービスを活用しましょう。
- 予防のための研修:管理職を含む全スタッフに対して、ハラスメントとは何か、どのような行為が該当するかを定期的に教育します。文化の違いから生じる誤解を防ぐため、外国人スタッフの文化的背景についても学ぶことが重要です。
- 事案発生時の対応:相談を受けたら、迅速に事実確認を行い、適切な措置を講じる必要があります。被害者のプライバシー保護と、加害者への適正な処分が求められます。
- 違反した場合、助言・指導・勧告の対象となり、従わない場合は企業名が公表されるリスクがあります。
出典:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html)取得:2025年10月
文化的配慮の実践
宗教や習慣の違いを理解し、尊重することが定着率を高めます。
- イスラム教徒のスタッフがいる場合、礼拝の時間を確保できるよう配慮しましょう。1日5回の礼拝が必要ですが、勤務時間中は2〜3回程度です。
- 食事制限への対応も重要です。イスラム教徒は豚肉とアルコールを摂取できず、ヒンドゥー教徒は牛肉を避けます。まかないの提供時には注意が必要です。
- 旧正月や断食月など、母国の重要な行事への理解を示すことで、外国人スタッフのモチベーションが高まります。
行政対応と罰則リスク
法律違反が発覚すると、企業は重い罰則を受けるだけでなく、社会的信用も失います。具体的な違反内容と罰則を理解しておきましょう。
主要な違反と罰則
違反内容 | 根拠法令 | 罰則 | 過去事例 |
---|---|---|---|
不法就労助長 | 入管法
第73条の2 |
5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科可) | ラーメンチェーン「一蘭」:留学生10名を週28時間超で就労させ、社長ら7名を書類送検(2018年) |
労働時間違反 | 労働基準法第32条 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 | 串かつ「だるま」:留学生17名を週28時間超で就労、法人に罰金50万円、統括部長に罰金30万円(2017年) |
雇用状況届出違反 | 雇用対策法第28条 | 30万円以下の罰金 | 多数の飲食店で届出漏れが指摘され、是正指導を受けている |
割増賃金未払い | 労働基準法第37条 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金、未払金の追徴 | 技能実習生を使用する事業場の15.6%で違反が認められた(2024年監督指導結果) |
安全基準違反 | 労働安全衛生法 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 | 技能実習生を使用する事業場の25.0%で機械等の安全基準違反(2024年監督指導結果) |
出典:マイナビグローバル「外国人雇用の不法就労助長罪」(https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/visa/1103)、厚生労働省「技能実習生の実習実施者に対する監督指導結果」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57493.html)取得:2025年10月
実際の違反事例から学ぶ
過去の違反事例を知ることで、同じ過ちを避けられます。
- ラーメンチェーン「一蘭」事件(2018年):ベトナムや中国からの留学生10名を週28時間を超えて働かせ、最長で週39時間以上働き月21万円を得た留学生もいました。社長をはじめ労務担当者や店長ら計7名が不法就労助長罪で書類送検されました。さらに留学生12人の氏名をハローワークに届け出なかったとして雇用対策法違反でも書類送検されています。
- 串かつ「だるま」事件(2017年):2015年9月から2016年11月にかけて、ベトナム、ミャンマー国籍の留学生17人を週28時間を超えて働かせ、中には週72時間働いていた留学生もいました。大阪簡裁で法人に罰金50万円、店舗統括部長に罰金30万円の有罪判決が言い渡されました。
- 中村屋事件(2021年):食品メーカーの中村屋が、通訳などの在留資格で来日したネパール人6人を、資格外の業務と知りながら工場で不法就労させたとして、埼玉工場の採用担当係長が書類送検されました。
「知らなかった」は通用しない
不法就労助長罪は、雇用主が外国人の就労資格を確認する義務を怠った場合に成立します。
- 「本人が大丈夫だと言っていた」「在留カードを見せてもらったが、偽造とは気づかなかった」という弁解は認められません。
- 確認義務を果たしたことを証明するため、在留カードのコピー保管と、出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」で確認した記録を残しておくことが重要です。
- 2025年6月からの厳罰化により、罰金が300万円から500万円に、懲役刑が3年から5年に引き上げられました。さらに懲役と罰金の併科も可能になり、違反のリスクが大幅に高まっています。
労働基準監督署の調査対応
労働基準監督署から調査が入った場合の対応も知っておきましょう。
- 調査では、タイムカード、賃金台帳、雇用契約書、就業規則などの提出を求められます。日頃からきちんと整備しておくことが重要です。
- 外国人労働者を雇用している場合、在留カードのコピー、雇用状況届出書の控え、資格外活動許可書(該当者のみ)の提示も求められます。
- 違反が見つかった場合、是正勧告書が交付されます。指定された期限内に是正し、是正報告書を提出する必要があります。
- 悪質な違反の場合は書類送検され、企業名が公表されます。これにより採用活動や取引に大きな影響が出ます。
リスクを防ぐためのチェックリスト
最後に、外国人採用時に確認すべき項目をチェックリスト形式でまとめました。このリストを使って定期的に確認することで、法令違反のリスクを大幅に減らせます。
採用前チェック
カテゴリ | 確認項目 | 合否 | 対応部門 |
---|---|---|---|
在留資格確認 | 在留カード原本の確認(表裏両面) | □ | 人事・店長 |
在留資格確認 | 在留期限が雇用期間をカバーしているか | □ | 人事・店長 |
在留資格確認 | 就労制限の有無を裏面で確認 | □ | 人事・店長 |
在留資格確認 | 資格外活動許可欄の確認(留学・家族滞在の場合) | □ | 人事・店長 |
在留資格確認 | 出入国在留管理庁の失効情報照会で有効性確認 | □ | 人事 |
在留資格確認 | 在留カードのコピー保管(両面) | □ | 人事 |
業務範囲確認 | 在留資格で認められる業務内容の把握 | □ | 人事・店長 |
業務範囲確認 | 予定する業務が在留資格の範囲内か確認 | □ | 人事・店長 |
労働時間確認 | 留学生・家族滞在の場合、週28時間制限の説明 | □ | 人事・店長 |
労働時間確認 | 他のアルバイト先での勤務時間を確認 | □ | 人事・店長 |
雇用時チェック
カテゴリ | 確認項目 | 合否 | 対応部門 |
---|---|---|---|
雇用契約 | 労働条件通知書の作成と交付(日本語版) | □ | 人事 |
雇用契約 | 可能であれば母語版の労働条件通知書も交付 | □ | 人事 |
雇用契約 | 在留資格に関する特約条項の記載 | □ | 人事 |
届出 | ハローワークへの外国人雇用状況届出(雇入れ時) | □ | 人事 |
社会保険 | 雇用保険の加入手続き(週20時間以上の場合) | □ | 人事 |
社会保険 | 健康保険・厚生年金の加入手続き(常時雇用の場合) | □ | 人事 |
教育 | 安全衛生教育の実施(母語または理解できる言語で) | □ | 店長・教育担当 |
教育 | 業務マニュアルの提供(多言語対応または視覚資料) | □ | 店長・教育担当 |
相談体制 | ハラスメント相談窓口の案内 | □ | 人事・店長 |
相談体制 | 困ったときの相談先を明示 | □ | 人事・店長 |
雇用中の定期チェック
カテゴリ | 確認項目 | 合否 | 対応部門 |
---|---|---|---|
在留期限管理 | 在留期限の3ヶ月前に更新手続きを確認 | □ | 人事・店長 |
在留期限管理 | 更新後の在留カード確認とコピー保管 | □ | 人事 |
労働時間管理 | 留学生の週28時間超過がないか毎週確認 | □ | 店長 |
労働時間管理 | 36協定の締結と届出(時間外労働がある場合) | □ | 人事 |
賃金管理 | 最低賃金の遵守(都道府県別) | □ | 人事 |
賃金管理 | 時間外・休日・深夜の割増賃金の適正支払い | □ | 人事 |
賃金管理 | 給与明細の交付(理解できる言語での説明) | □ | 人事・店長 |
記録保管 | タイムカードまたは勤務記録の適正な保管 | □ | 店長 |
記録保管 | 賃金台帳の適正な記録と保管 | □ | 人事 |
職場環境 | ハラスメントの有無を定期的に確認 | □ | 人事・店長 |
職場環境 | 文化的配慮の実施状況確認 | □ | 店長 |
責任者選任 | 外国人労働者10人以上の場合、雇用労務責任者を選任 | □ | 経営者・人事 |
離職時チェック
カテゴリ | 確認項目 | 合否 | 対応部門 |
---|---|---|---|
届出 | ハローワークへの外国人雇用状況届出(離職後10日以内) | □ | 人事 |
書類整理 | 雇用記録の適切な保管(最低3年間) | □ | 人事 |
最終賃金 | 未払い賃金がないか確認し、速やかに支払い | □ | 人事 |
このチェックリストは、厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」および出入国在留管理庁の各種ガイドラインに基づいて作成しています。
まとめ
外国人スタッフの採用は、適切なルールを守れば飲食店にとって大きなメリットをもたらします。人手不足の解決だけでなく、多様な文化を持つチームは職場を活性化し、インバウンド対応力も高めます。
この記事で解説した重要ポイントをもう一度振り返りましょう。
- 在留資格の確認は全ての基本です。在留カードの原本確認、失効情報照会、コピー保管を徹底しましょう。特定技能、留学、永住者など、在留資格ごとに就労範囲が異なることを理解してください。
- 雇用契約は日本人と同じルールが適用されます。国籍による差別は違法です。契約書の交付、最低賃金の遵守、割増賃金の支払い、社会保険の加入を確実に行いましょう。
- 労働時間管理は特に注意が必要です。留学生は週28時間以内という制限があり、これを超えると不法就労助長罪になります。複数のバイト先での勤務時間も合算して管理する責任があります。
- 教育とハラスメント防止は法的義務です。安全衛生教育は理解できる言語で実施し、ハラスメント相談窓口を設置しましょう。文化的配慮も定着率を高めるために重要です。
- 2025年の法改正で罰則が厳罰化されました。不法就労助長罪は5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金に引き上げられ、「知らなかった」では済まされません。
飲食業界での外国人雇用は、今後ますます一般的になっていきます。2027年には技能実習制度が育成就労制度に移行し、転職制限も緩和される予定です。早い段階から適切な雇用管理体制を構築しておくことが、優秀な外国人人材を確保し続けるカギとなります。
この記事で紹介したチェックリストを活用し、定期的に確認することで、法令違反のリスクを最小限に抑えられます。不安な点があれば、社会保険労務士や行政書士などの専門家に相談することも検討しましょう。外国人スタッフが安心して働ける職場づくりは、すべてのスタッフにとって働きやすい環境につながります。
適切なルールを守りながら、多様性を活かした強い飲食店を作っていきましょう。
よくある質問
- Q1. 外国人スタッフを採用する際、最初に確認すべきことは?
在留カードの在留資格・就労可否・在留期限を必ず確認してください。出入国在留管理庁の「在留カード等番号照会システム」で確認できます。 - Q2. 「特定技能1号」と「技能実習」は何が違いますか?
技能実習は「研修目的」であり雇用契約ではありません。一方で特定技能1号は「労働契約」に基づく在留資格で、飲食店では即戦力として調理・接客業務に従事できます。 - Q3. 留学生アルバイトは何時間まで働けますか?
資格外活動許可を取得していれば週28時間以内、長期休暇中は1日8時間までです。超過すると本人と雇用主の双方が処罰対象になります。 - Q4. 雇用契約書は日本語だけでも大丈夫ですか?
法律上は日本語のみでも構いませんが、内容を理解できないまま署名させると労働基準法第15条違反とみなされる場合があります。可能な限り母語併記か通訳を通して説明しましょう。 - Q5. パスポートや在留カードを会社で預かってもいいですか?
いいえ。厚生労働省の「外国人雇用管理指針」で不当な書類預かりは禁止されています。紛失防止が目的でも本人保管が原則です。 - Q6. 労災や社会保険の加入は外国人にも必要ですか?
はい。日本人と同様に、雇用形態や労働時間に応じて加入義務があります。加入していない場合、事業者が過去分を遡って負担する可能性があります。 - Q7. 採用後の教育はどのようにすべきですか?
厚労省の「多言語安全衛生教材」やLINE翻訳、動画OJTなどを活用し、外国人スタッフが理解できる言語で教育を行いましょう。これにより事故・トラブルのリスクを大幅に減らせます。 - Q8. 不法就労を防ぐための最も簡単な方法は?
採用時に在留カード原本を確認し、コピーを保管。勤務開始後も在留期限の更新チェックを定期的に行うことです。信頼できる登録支援機関を利用するのも効果的です。 - Q9. もし違反が見つかった場合、どうすればいいですか?
すぐに弁護士や社会保険労務士、または「外国人雇用相談コーナー(厚生労働省)」へ相談してください。自主的な是正報告を行えば、行政指導で済むケースもあります。 - Q10. JLBCのような登録支援機関を利用するメリットは?
採用から在留手続き、教育支援までワンストップで対応でき、法令遵守リスクを減らせます。特に特定技能人材の紹介を希望する場合は信頼できる登録支援機関の利用が推奨されます。
参考サイト
- 厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」 — 公的な指針全文。募集・採用、労働条件、安全衛生等の基礎を押さえられます。
- 厚生労働省「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針」 — 外国人労働者に適用される雇用・労働条件上の配慮事項を規定しています。
- 厚生労働省「外国人雇用管理指針 主な改正内容」 — 労働条件明示や賃金支払、公正待遇の要点改正点が整理されています。
- 厚生労働省「外国人雇用対策」 — 外国人採用全体の制度、届出義務、指針との関係性がまとめられています。
- Office Matsurika「外国人労働者の雇用管理のポイントと手続き解説」 — 実務目線でわかりやすく法令・手続きを整理した解説記事。
- ビジネスロー・法律事務所「外国人を雇用する際に守るべき法令(入社から退職まで)」 — 入社から退職までの法令対応フローを弁護士視点で解説。
初心者のための用語集
- 在留資格:外国人が日本で滞在・就労するために法務省が与える資格。職種ごとに働ける内容が決まっており、「特定技能」「留学」「技術・人文知識・国際業務」などがある。
- 特定技能1号・2号:人手不足分野で一定の技能と日本語力を持つ外国人が働ける資格。1号は現場作業中心、2号は熟練人材で家族帯同・永住が可能。
- 技能実習:開発途上国への技能移転を目的とする制度。就労ではなく「研修」の扱いで、労働契約はなく雇用関係が異なる。
- 資格外活動許可:「留学」や「家族滞在」などの在留資格を持つ外国人が、許可を得て本来の活動以外にアルバイトなどを行うための許可。週28時間以内が上限。
- 不法就労助長罪:就労資格のない外国人を働かせた雇用主が問われる犯罪。入管法第73条で定められ、懲役5年以下または罰金500万円以下。
- 入管法(出入国管理及び難民認定法):外国人の入国・在留・就労を定める法律。企業側も遵守義務を負い、違反すると刑事罰の対象になる。
- 労働基準法第15条:雇用契約の締結時に労働条件を明示しなければならないと定めた法律。外国人労働者にも日本人と同様に適用される。
- 雇用状況届出:外国人を雇用・離職させた際にハローワークへ提出する届出。事業者の義務であり、怠ると30万円以下の罰金。
- 登録支援機関:特定技能外国人の生活支援や手続きを代行する機関。入管庁に登録されており、企業のサポートを行う。
- 労働安全衛生法第59条:労働者の安全教育を義務付けた法律。外国人には理解できる言語での教育が求められる。
- パワハラ防止法:正式名称は「労働施策総合推進法」。職場でのパワーハラスメント防止措置を企業に義務づける法律。
- 特定技能外食業分野運用要領:入管庁が定めた外食業での特定技能運用ルール。就労範囲、支援内容、手続き方法などが詳細に定義されている。
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