特定技能実習

【2025年版】伊万里強盗殺人から読み解く「特定技能・技能実習」の実態─データでわかる日本社会と外国人労働の真実

この記事の要点・結論

2025年7月に佐賀県伊万里市で発生した強盗殺人事件は、社会に大きな衝撃を与えました。容疑者がベトナム国籍の技能実習生であったことから、外国人労働者制度のあり方について、改めて様々な角度から議論が交わされています。この記事では、今回の事件を冷静に捉えるための一つの視座として、まず事件の概要を時系列で整理します。その上で、特定技能・技能実習制度が日本の人手不足に対して果たしている役割や、制度自体が抱える課題について、公表されているデータや事例を基に多角的に光を当てます。

事件の概要:何が起きたか(時系列)

まず、佐賀県伊万里市で発生した事件の経緯を、報道に基づき時系列で整理します。

表1:伊万里市強盗殺人事件の時系列(2025年7月26日〜28日)
日時 出来事
2025年7月26日 午後4時20分頃 容疑者が被害者宅を訪問。インターフォンに応対した母親がドアを開けたところ、室内に侵入。
同 午後4時30分頃 容疑者は「お金」「財布を見せろ」と要求し、椋本舞子さん(40)から現金1万1000円を強奪。その後、ナイフで椋本さんを殺害し、70代の母親にも重傷を負わせたとされます。
同 午後4時30分頃 母親が近隣に助けを求め、住民が110番通報。容疑者は現場から逃走しました。
2025年7月27日 午後 警察がインターフォンの録画画像などから容疑者を特定し、任意同行を求めました。
同 午後11時55分 佐賀県警が、被害者宅の近所に住むベトナム国籍の技能実習生、ダム・ズイ・カン容疑者(24)を強盗殺人と住居侵入の疑いで逮捕しました。

この事件は、インターフォンに残された画像が容疑者特定の決め手の一つとなり、発生から約31時間半での逮捕に至りました。

加害者・被害者・動機とされる要素を整理

  • 加害者:ダム・ズイ・カン容疑者(24歳)。ベトナム国籍の技能実習生で、造船関連の企業に勤務。同僚からは「真面目だった」との声も報じられています。
  • 被害者:椋本舞子さん(40歳)と70代の母親。椋本さんは日本語講師として、国内外で多くの教え子に慕われていたと伝えられています。
  • 動機とされる要素:報道によると、容疑者は金銭を要求していたとされ、経済的な困窮が背景にある可能性も視野に捜査が進められています。奪われた金額は1万1000円でした。

この事件をきっかけに、個人の犯罪行為と、その人物が属する国籍や社会的属性(今回は「技能実習生」)をいかに捉えるべきか、という点が社会的な論点の一つとなっています。

ベトナム人技能実習生の現状と貢献

今回の事件の一方で、多くのベトナム人労働者が日本の産業や社会で役割を担っている実態もあります。ここでは、彼らがどのように評価され、社会に貢献しているか、いくつかの事例を紹介します。

評価を得ている事例・技能向上データ

  • 技能の習熟:建設、自動車整備、介護などの分野で、専門的な国家資格や技能検定に合格する事例が報告されています。
  • 学習意欲の高さ:業務の傍ら日本語の学習に励み、日本語能力試験の難関レベルに合格する実習生も存在します。
  • 職場での評価:現場の重要な戦力として、職場で高く評価されているケースも見られます。
  • 公的な表彰:2024年12月には在日ベトナム大使館が、日本で活躍する優秀なベトナム人労働者や受け入れ企業を表彰するイベントを開催しています。
表2:ベトナム人特定技能・技能実習生の功績事例
業種 事例概要 評価されている点
建設 因島鉄工のベトナム人技能者3人が、全国で初めて特定技能2号(溶接)に合格しました。(2024年) 8年以上の実務経験と企業の支援の下、難易度の高い国家資格を取得したことが評価されました。
自動車整備 山形県の整備工場で働くベトナム人2人が特定技能2号に合格。「店ののエース」と評されています。 合格率30%の難関試験を突破し、現場に欠かせない戦力として認識されています。
農業 深川養鶏農業協同組合(山口県)で、ベトナム人技能実習生が日本語能力試験N1に合格しました。 日々の学習を継続し、日本語の高度な運用能力を習得した点が注目されています。
介護 青山メディカルグループの奨学金プログラムでは、ベトナム人留学生の介護福祉士国家試験合格率が91.2%に達しました。 専門知識を学び、日本の介護現場を担う専門職として活躍が期待されています。

これらの事例は、適切な環境下で多くのベトナム人労働者が能力を発揮し、日本企業から高く評価されていることを示しています。事件の背景を考える際には、こうした側面も踏まえる必要があります。

特定技能制度が人手不足をどう補っているか

日本の多くの産業が直面する人手不足という課題に対し、特定技能・技能実習制度がどのような役割を担っているのかをデータで見ていきます。

業種別人手不足率と受入人数の相関表

特に人手不足感が強い業種において、外国人労働者の受け入れが進んでいる傾向が見られます。

表3:主要業種における有効求人倍率と外国人雇用状況
業種 有効求人倍率(日本人含む) 特定技能外国人数(2024年末時点) 状況の解説
建設業 6.14倍 38,365人(前年比57%増) 人手不足が特に深刻な業種。外国人材の受け入れが急増し、社会インフラの維持に寄与しています。
介護サービス 3.41倍 15,011人(同28.1%増) 高齢化が進む中、介護現場の担い手として重要な存在となっています。
飲食料品製造業 (データなし) 約63,471人 特定技能制度において最も多くの外国人を受け入れており、食料の安定供給を支える一翼を担っています。
農業 (データなし) 28,902人(同9.5%増) 担い手不足が課題となる日本の農業において、その労働力を補っています。

2024年10月時点での外国人労働者総数は約230万人に達しています。ある内閣府の試算(2025年4月)では、もし外国人労働者がいなくなれば、日本のGDPに▲6.1%の損失が生じるとの推計もあり、日本経済にとって、外国人労働者が労働力確保の観点から重要な存在となっていることを示唆しています。

事件が示す課題:支援不足・賃金ギャップ・生活苦

伊万里市の事件は、個人の資質の問題として片付けるだけでなく、技能実習・特定技能制度が内包する課題に目を向けるきっかけともなっています。

    • 不適切な賃金支払い:割増賃金の未払いや最低賃金違反など、労働基準法関連の違反が指摘されています。
    • 労働環境の問題:労働安全基準の違反が監督指導で最も多く見つかるなど、実習生の安全確保が課題となる場合があります。

技能実習生の失踪:令和5年には過去最多の約9,700人が失踪。背景には低賃金や、来日時に背負う多額の借金問題などがあるとの分析がなされています。

  • 支援体制の不備:受け入れ企業や監理団体によるサポートが十分でなく、日本社会で孤立する外国人がいることも問題視されています。

 

厚生労働省の2023年の調査では、技能実習生の受け入れ事業所のうち、7割以上で労働基準関係法令の違反が確認されました。特に賃金未払いや安全基準に関する問題は根深く、一部の外国人実習生が経済的・精神的に追い詰められるリスクも指摘されています。こうした構造的な問題が、今回の事件の遠因となった可能性を問う声もあり、制度運用の改善は急務とされています。

事件を多角的に捉えるための論点整理

一つの衝撃的な事件をきっかけに、特定の集団に対する見方が一面的になることがあります。事態を多角的に捉え、冷静な議論を行うために、以下のような論点が挙げられます。

  • 個人の犯罪と集団の特性の切り分け
  • 印象論と客観的データの比較
  • 課題解決に向けた社会的な動きの存在

① 個人の犯罪と集団の特性の切り分け

今回の事件は、一人の人間が起こした犯罪です。これを「ベトナム人が」「技能実習生が」と、その人が属する集団全体の問題として一般化することの是非が問われます。個人の行為と、その人が属する集団の一般的な特性とを分けて考えることは、偏見を避ける上で重要な視点となります。

② 印象論と客観的データの比較

本記事で示したように、データは外国人労働者が日本経済に果たしている役割の大きさを示唆しています。また、外国人労働者全体の検挙率は、日本人を含む総人口の検挙率よりも低い水準にあるとの統計も存在します。一部の犯罪事例によって形成される印象と、全体像を示すマクロなデータとを比較検討することが、より客観的な理解につながります。

③ 課題解決に向けた社会的な動きの存在

外国人住民との共生や、労働環境の改善を目指す地道な取り組みも全国で行われています。自治体による多文化共生センターの設置や、NPOによる相談支援、優良な受け入れ企業による手厚いサポートなど、問題解決に向けたポジティブな活動も存在します。こうした取り組みに光を当てることも、全体像を捉える上で欠かせません。

企業ができる再発防止策と成功事例

外国人材を受け入れる企業側にも、再発防止と人材の活躍支援に向けた取り組みが求められます。ここでは、企業が取り組める対策と、その参考となる事例を挙げます。

  • 適正な労働条件と賃金の保証:法令を遵守し、日本人従業員との間に不合理な待遇差を設けないことが基本です。経済的な安定は、生活の安定の基盤となります。
  • 日本語教育と生活支援の実施:業務に必要な日本語教育に加え、日本の文化や生活ルールに関するオリエンテーションを行うことが、円滑なコミュニケーションと相互理解を促進します。
  • 相談体制の構築:母国語対応が可能な相談窓口の設置や、定期的な面談の実施は、彼らが抱える問題を早期に発見し、孤立を防ぐ上で有効です。
  • 地域社会との連携:地域のイベントへの参加を促すなど、職場以外のコミュニティとつながる機会を提供することも、彼らの社会的な適応を助けます。

優良な受け入れ企業の事例を見ると、外国人を単なる労働力としてではなく、共に働く組織の一員として捉え、長期的な視点でキャリア形成を支援する姿勢が見られます。こうした企業の取り組みは、外国人材の定着率向上や生産性向上にも繋がり、企業の持続的な成長に貢献する可能性を秘めています。

まとめ

伊万里市で起きた事件は、技能実習制度が抱える課題や、それによって個人が追い詰められるリスクを社会に提示しました。この問題については、国や企業、社会全体で真摯に向き合い、改善を進める必要があります。一方で、データは外国人材が今日の日本社会を支える上で、重要な役割を担っていることも示しています。

この悲劇的な事件を一過性のものとして消費するのではなく、制度の光と影の両面を直視することが不可欠です。個人の犯罪行為を厳正に裁くことは当然として、それと同時に、なぜこのような事態が起きたのかという背景にも目を向け、国籍を問わず誰もが安心して暮らせる社会の構築に向けて、冷静で建設的な議論を続けることが求められます。

よくある質問

  • 特定技能・技能実習生は犯罪率が高いのですか?
    いいえ。警察白書によれば外国人全体の犯罪認知件数は日本人とほぼ同水準で推移しています。今回の事件は例外的な個人犯罪と理解してください。
  • 事件を受けて制度は見直されますか?
    2025年4月に支援計画のKPI化・自治体連携強化など運用改善が始まりました。さらに2027年には育成就労制度への全面移行が予定されています。
  • ベトナム人技能実習生が高評価を受ける例はありますか?
    あります。たとえば因島鉄工では3名が全国初の特定技能2号に合格し、溶接リーダーとして活躍しています。
  • 企業が再発防止のためにできる支援策は?
    • 生活支援KPI(日本語学習時間・相談件数)の明確化
    • 同一労働同一賃金とキャリアパスの提示
    • オンライン面談の録画保存でフォローアップを徹底
  • 外国人雇用で守るべき法律は?
    主に労働基準法出入国管理及び難民認定法です。賃金不払い・超過労働は監督指導の対象となります。
  • 特定技能で来日した人を定着させるポイントは?
    • 母国語サポートと多言語OJTの実施
    • 家族帯同や住宅支援など生活インフラの整備
    • JP‑MIRAIなど外部支援団体との連携

参考サイト

初心者のための用語集

  • 特定技能:深刻な人手不足分野で外国人が最長5年間働ける在留資格。日本語・技能試験の合格が条件。
  • 技能実習生:開発途上国の人材が最長5年間、日本企業で技術を学び母国へ持ち帰る制度の在留資格。
  • 特定技能2号:建設・造船など熟練レベルの作業ができる外国人向けの上位資格。家族帯同と在留更新が可能。
  • 登録支援機関:企業から委託を受け、住居確保や日本語学習など特定技能外国人を生活面で支援する民間機関。
  • 有効求人倍率:求職者1人当たりの求人件数を示す指標。1を超えるほど人手不足が深刻。
  • GMig2モデル:内閣府が外国人労働者の経済効果を試算する際に用いる一般均衡マクロ経済モデル。
  • 同一労働同一賃金:国籍や雇用形態によらず、同じ仕事内容には同じ賃金を支払うべきという労働政策原則。
  • KPI(Key Performance Indicator):支援計画の達成度を測る主要指標。日本語学習時間や相談件数などを数値化。
  • ヘイトスピーチ:人種・国籍などを理由に特定集団を差別・排斥する表現。大阪府条例などで禁止が進む。
  • 育成就労制度:2027年導入予定の新制度。技能実習の後継として、人材育成と労働力確保を両立させる狙い。

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松田 悠志
㈱ビーシアップ代表。宅建士・FP2級。人材採用・営業・Webマーケ・資産形成を支援し、採用コンサルやマネープラン相談も対応。株12年・FX7年のスイングトレーダー。ビジネス・投資・開運術を多角的に発信し、豊かな人生を後押しします。