親子リレーローンとは?─ 基本構造と利用者が増える背景
- 親子二世代にわたって住宅ローンを返済する独自の仕組み
- 2025/03 金融庁報告による利用件数推移:直近で増加傾向
- 背景にあるのは高齢化・住宅価格高騰・子世代の返済期間確保
誕生の経緯と 2025 年利用件数推移(金融庁 2025/03 報告)
親子リレーローンは、
高齢化社会が進む日本で「親の年齢制限を超えて家を取得したい」「親子の収入を合算して借入可能額を増やしたい」というニーズを受けて誕生しました。伝統的には、親が高齢だと長期の住宅ローンが難しいとされていましたが、二世代で返済するモデルを明確に設計することで、
返済期間の延長や
借入上限拡大を実現しています。
金融庁の「主要行等住宅ローン統計(2025/03 報告)」では、2020年時点の調査と比較して
親子リレーローンの取り扱い件数は約1.2倍に増加したと推定されています。実際、2025年に向けて各金融機関がフラット35などを活用しつつ、親子向けの商品を積極的にリリースしている状況です。ただし、同報告書では「まだ市場規模としてはペアローンや収入合算と比べれば限定的」という見解も示されており、
認知度や理解不足も一因となっていると指摘されています。
住宅価格高騰と世代間協力の需要
- 土地・建築費の上昇により購入予算が跳ね上がる
- 都市部でのマンション価格高騰(2024年〜2025年はさらに顕著)
- 「親の資金援助 + 子の返済能力」で取得を目指す家庭が増加
近年の住宅市場では、都市部を中心に
マンション価格や
新築戸建ての用地取得コストが上昇し続けています。住宅金融支援機構のデータ(2024/12)によると、都心や主要都市圏での新築価格の平均はこの10年で約1.3倍に達している地域もあるため、若い子世代だけの収入では借入可能額が不足しがちです。
一方、親世代も自身の老後資金確保などの観点から、まとまった生前贈与は厳しいケースが増えています。そこで親自身がローンに参加し、年金収入や預貯金から月々の返済を一部担う“二世代協力”モデルが注目されているのです。このような背景から、
親子リレーローンを活用する世帯が徐々に増えつつあります。
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仕組みを 5 分で理解 ─ 借入枠拡大と返済リレーの流れ
- 親子リレーローン:1本のローンで親から子へ返済負担をリレー
- ペアローン / 収入合算:それぞれ別契約 or 合算する形態
- 団信・火災保険の加入状況が親子で異なる点に注意
親子ペアローン/収入合算との違い
まず同じ「親子が協力して住宅ローンを組む」方法として、
親子ペアローンや
収入合算があります。親子ペアローンは、親と子がそれぞれの住宅ローン契約を別個に結ぶ形態です。たとえば、親が2,000万円、子が3,000万円といったように独立した契約になります。一方、収入合算は、子の収入を親の連帯保証的に合算する仕組みで、契約自体は一本ですが、原則的には
親が主債務者となるケースが多いです。
これに対し、
親子リレーローンは「1本のローンを、当初は親が返済し、残りの返済期間を子が引き継ぐ」というやり方です。返済期間を子の若い年齢基準で設定できるため、
最長35年〜50年程度の長期返済も視野に入ります。その結果、月々の返済額を抑えられる、あるいは借入上限を引き上げやすいメリットが生じます。
団信・火災保険の加入パターン別比較表
加入パターン |
団信加入者 |
火災保険 |
主な特徴 |
親のみ加入 |
親が100%加入 |
建物名義人が加入 |
親が死亡時、ローンは完済。子には返済負担が残らない。 |
子のみ加入 |
子が100%加入 |
建物名義人が加入 |
親が死亡時は団信の保険金が出ず、残債を子が引き継ぐ。 |
親子別々 |
2人とも加入(1/2ずつ) |
持分それぞれで加入可能 |
半額ずつ保障。どちらかが死亡で半分のみ完済。 |
(2025/01 各銀行の商品概要書を参照)
団体信用生命保険(団信)は、もし債務者が死亡または高度障害状態となった場合、ローン残高が保険金で支払われる保険商品です。
親子リレーローンでは、契約上どちらか一方のみが団信に加入できるケースも多く、注意が必要です。特に親が高齢で団信加入が難しいときは、
子のみが加入する形になる場合があり、親が死亡してもローンが完済されず、子が支払を引き継ぐリスクが残ります。
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メリットを数値検証 ─ 借入上限・総返済額はこう変わる
- 親子リレーローンで借入可能額がどの程度増えるのか
- モデルケースで総返済額・完済年齢を比較
- 長期返済ゆえの金利コスト増加にも要注意
モデル① 親55 歳・子30 歳・借入5,000 万円
仮に親が55歳、子が30歳という親子で5,000万円を借りるケースを考えます。一般的に親の年齢が55歳でローンを組むと、完済時年齢制限80歳までの残年数は25年しかありません。一方、子の年齢30歳であれば最長35年、金融機関によっては
40〜50年の返済期間まで設定できる場合があります。
親子リレーローンなら、
返済期間を子の年齢基準(例えば35年)に設定し、前半10年程度は親が返済し、残り25年を子が引き継ぎます。この場合、月々の返済額は1ヶ月あたりおおむね14万〜15万円程度(固定金利1.5〜2.0%目安)で抑えられる可能性があります。25年返済で組んだ場合と比較すると、月の返済負担を2〜3万円ほど減らす効果があります。
モデル② 親60 歳・子25 歳・借入4,000 万円
- 親60歳のみで借りる場合:最大20年〜25年返済
- 子25歳のみで借りる場合:最長35年〜50年返済
- 親子リレー:親が5年〜10年返済し、子が残りを継続
60歳の親が4,000万円を単独で借りると、返済期間が20〜25年に限られ、月々の返済額は15万円以上になる可能性が高いです。これでは年金生活との両立が難しく、家計を圧迫しかねません。しかし、
親子リレーローンを利用すれば、子の年齢25歳に合わせて35年の返済期間を設定し、そのうち5年は親が返済、残り30年を子が引き継ぐ形にできるため、月々の返済は12万円程度に圧縮できるケースがあります。
総返済額・完済年齢シミュレーション表
プラン |
借入期間 |
月返済額 |
総返済額 |
完済時年齢 |
親単独(60歳) |
25年 |
約15.5万円 |
約4,650万円 |
85歳 |
子単独(25歳) |
35年 |
約11.3万円 |
約4,750万円 |
60歳 |
親子リレー |
35年(親5年+子30年) |
初期5年 約14万円
残30年 約11.5万円 |
約4,800万円 |
親65歳→子55歳 |
(固定金利1.7%想定、2024/12時点の試算:実際の金利・手数料で変動)
親子リレーローンは返済期間が長くなるぶん総返済額はやや増えがちですが、月々の返済額を抑えやすい点が
最大のメリットです。ただし、長期にわたって支払う利息負担や、途中で親が死亡・働けなくなった場合のリスクにも注意が必要です。
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デメリット&リスク ─ 相続・贈与・年金への影響に注意
- 相続税評価・贈与税課税リスク(2025年改正後の新ルール)
- 親死亡時の団信カバー範囲に要注意
- 年金収入からの返済継続リスク:破綻事例も
相続税評価・贈与税課税ポイント(2025 年改正後)
2025年の税制改正では、生前贈与の加算期間が従来の3年から7年に延長されるなど、
相続・贈与の課税強化が行われます。また、
相続時精算課税制度と暦年課税との使い分け方にも変更点があり、特に親から子への住宅取得資金援助をどう扱うかが焦点となっています。
親子リレーローンでは、親と子の
持分割合をどう設定するかによっては、子が実質的に返済しているのに持分を少なくしたりすると、「贈与があった」と認定されるリスクがあります(国税庁 2025/01 告示)。さらに、ローン返済を親子で柔軟に分担する過程で、
子が返済負担分より多い持分を得ているように見なされると課税対象になる可能性もあるため、実務的に注意が必要です。
親死亡時のローン残債&団信カバー範囲
- 親が団信加入していれば残債が完済されるケースが多い
- 子が団信にしか入っていない場合、親死亡でも残債継続
- 保障金額が借入額の半分のみ等、商品により制限あり
親子リレーローンの大きな論点は、
親死亡時の残債処理です。親が死亡した際、親が団信に100%加入していれば残債は保険金で完済されるケースが一般的です。しかし、実際には親が高齢や健康面の事情で団信に加入できない、あるいは保険料負担を抑えるために
子だけが加入している場合など、様々なパターンがあります。こうした契約形態では、親死亡後に子がそのまま残債を引き継ぐことになり、返済負担が大きくなるリスクがあります。
年金収入からの返済継続リスク
総務省「家計調査(2024年版)」では、65歳以上無職世帯の平均月収(年金中心)は約22〜25万円で、毎月約3万円程度の赤字に陥っているデータが示されています。つまり、親が年金を受給しながら住宅ローンを払い続けるのは相当に厳しいというのが現実です。日本年金機構の統計(2024/11)でも、国民年金だけの場合は月5〜6万円程度の受給にとどまるケースが多く、実質返済は子に大きく依存せざるを得ません。
返済負担率が25%を超えると、家計が破綻しやすくなるとの調査(住宅金融支援機構 2024/10)もあるため、親子リレーローンを組む段階で「親の年金だけでもある程度返済が可能か」「途中で返済が滞った際のリスクヘッジ策はあるか」を慎重に検討すべきです。
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金融機関別“親子リレー”商品スペック比較(2025 年4月)
- フラット35を取り扱うネット銀行 vs 地方銀行
- 借入年齢上限・団信種類・繰上返済手数料など
- 2025/04商品概要書から抜粋した比較表
ネット銀行(住信 SBI・au じぶん)× 地方銀行(横浜・名古屋など)
親子リレーローンは、
フラット35で組むケースが広く知られています。例えば住信SBIネット銀行では、親の年齢が70歳以上であっても子の年齢基準で最長35年返済が可能(フラット35親子リレー型)と公式に発表しています(2025/04時点)。一方、auじぶん銀行は最長50年ローンを提供しており、金利に上乗せがあるものの、より長期の返済期間設定が可能です。ただし、親子リレーの明確な商品としては公表されていないため、事前に要確認です。
地方銀行の例では、横浜銀行や名古屋銀行がフラット35を取り扱っており、
親子リレー返済を選択する余地があります。名古屋銀行は独自の「スーパー住宅ローン」に親子リレーの明示的な記載はないものの、JA系の共済と組み合わせて実質的に親子リレーに対応している事例もあります(2025/04 各行商品説明書より)。
借入年齢上限/団信種類/繰上返済手数料を一覧表で
金融機関 |
借入年齢上限 |
最大借入期間 |
団信 |
繰上返済手数料 |
住信SBIネット銀行 |
70歳以上可(子が70歳未満) |
35年 |
任意加入(金利上乗せ) |
無料 |
auじぶん銀行 |
明示なし |
50年 |
充実プラン多数 |
一部無料 全額繰上は手数料あり |
横浜銀行 |
70歳未満(親子リレー可) |
35年 |
フラット35団信選択 |
無料(フラット35仕様) |
名古屋銀行 |
商品要確認 |
35年 |
一般団信 |
商品要確認 |
(2025/04 時点 商品概要書調べ)
表を見ると、ネット銀行は比較的厳しめの年齢制限がある一方、
フラット35を通じた地方銀行や住宅金融支援機構提携ローンでは、柔軟に親子リレーを組めるケースが多いです。ただし、保険料・手数料形態は銀行によって異なるため、必ず事前に詳細をチェックしましょう。
—
親子リレーローンが向く人・向かない人チェックリスト
- 健康で十分な年収がある親が主体の場合→向いている可能性大
- 親が高齢すぎる / 相続財産が多い場合は別の手段も検討
- 贈与計画・兄弟姉妹間の相続分も考慮が重要
向いているケース(親が健康・相続財産が少ない等)
以下のような条件がそろっているなら、
親子リレーローンはメリットが大きいでしょう。
- 親が比較的健康で、ローン返済の初期をしっかり負担できる
- 相続財産が少なく、他の兄弟との不公平が問題になりにくい
- 子が安定した職業で、長期間の返済負担を担える
- 親の年齢だけでは借入期間が短くなりすぎる
- 都市部などで、子世代の収入だけでは物件価格に届かない
このようなケースでは、借入上限の拡大や返済期間の延長という
親子リレーローン本来のメリットが生きるため、有効な選択肢になるでしょう。
向かないケース(親が高齢・持ち家複数・贈与計画あり等)
逆に、下記の場合は
注意や別の選択肢を検討した方が賢明です。
- 親がすでに70代〜80代で、団信加入が難しい
- 親が複数の不動産を所有し、相続財産が多く複雑
- 将来的に大きな生前贈与計画(2025年改正分)を進めたい
- 子が数年後に転勤・海外赴任などで住めなくなる可能性
- 家族間で相続トラブルが起きるリスクが高い
特に親が高齢で団信に入れない場合、親に万一のことがあってもローンは完済されず、子がそのまま負担を背負い込む可能性があります。また、持ち家や財産が複数ある家庭では、
相続・遺産分割の場面でトラブルにならないか慎重に検討する必要があります。
—
まとめ ─ 将来の相続設計まで見据えて判断しよう
親子リレーローンは、
借入上限を増やし長期返済を可能にするという点で、大きな魅力があります。都市部での住宅価格高騰や親の年齢による借入制限を突破できる手段として、利用件数が少しずつ増えているのも事実です。
しかし、
相続税・贈与税の新ルール(2025年改正)や
団信加入条件の制限、そして親死亡時に残債がどうなるかといったリスクも併せて把握しておかないと、後から想定外の負担がのしかかる可能性があります。特に親が高齢で団信未加入となった場合は、残された子が全てのローンを抱え込むことにもなりかねません。
また、親が年金生活に入りつつある場合、月々の返済継続が難しくなるリスクや、相続時に他の兄弟姉妹との財産分割トラブルが発生するリスクにも注意が必要です。結局のところ、親子リレーローンは
親子それぞれの収支状況、
相続設計、
将来のライフプランまでを含めて総合的に検討し、専門家(税理士やファイナンシャルプランナーなど)と相談しながら判断することが肝要だと言えます。
参考サイト
よくある質問(FAQ)
- 親子リレーローンとは何ですか?親と子が一つの住宅ローン契約で返済をリレーする仕組みです。親が一定期間支払い、その後に子が返済を引き継ぎ、最長50年までの長期借入が可能になります。
- 贈与税はかかりますか?持分割合と返済負担比率が一致しない場合、差額部分に贈与税が発生します。贈与税の基礎控除110万円や相続時精算課税制度を活用して非課税範囲に収める必要があります。
- 親が死亡した後はどうなりますか?団信加入者によって異なります。親が団信に加入していれば残債は完済されますが、子が加入者の場合は返済が継続されるため事前に契約内容を確認してください。
- どのような人に向いていますか?親が健康で団信加入に問題がなく、子に将来の返済見込みがあるケースに最適です。相続財産が少なく税負担を抑えたい家庭にも向いています。
初心者のための用語集
- 親子リレーローン:親と子が一つの住宅ローン契約をリレー形式で返済する仕組み。親→子へと返済期間を引き継ぎ、最長50年のローンが組める。
- ペアローン:親子など二人がそれぞれ別契約でローンを組み、返済を並行して行う方式。
- 収入合算:親子など複数人の収入を合算して単一のローン契約枠を大きくする方法。
- 団体信用生命保険(団信):ローン契約者が死亡・高度障害になった際に、保険金で残債を一括返済する保険。
- 暦年課税:1月1日~12月31日の1年間で受けた贈与を課税対象とし、年間110万円の基礎控除がある制度。
- 相続時精算課税制度:生前贈与を選択した場合に相続時に課税を精算する方式で、特定贈与者ごとに年間110万円の非課税枠がある。
- 基礎控除(贈与税):暦年課税で年間110万円までの贈与が非課税となる制度。
- 住宅取得資金贈与特例:親などからの住宅取得資金の贈与について、一定額(最大1,000万円)が非課税となる特別制度。
- 返済負担率:年収に対する年間ローン返済額の割合。通常は25%以下に抑えることが推奨される。
- フラット35:住宅金融支援機構が提供する、全期間固定金利の長期住宅ローン商品。
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