解体

【完全版】ビル解体前の構造診断と地中障害物調査ガイド─追加請求リスクを60%削減する5ステップ

【完全版】ビル解体前の構造診断と地中障害物調査ガイド─追加請求リスクを60%削減する5ステップ
この記事では、RC(鉄筋コンクリート造)・S(鉄骨造)・SRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)ビルの解体を予定しているオーナー様、プロジェクトマネージャー様、ゼネコンのご担当者様に向けて、解体前の構造診断地中障害物調査の具体的な流れ、費用感、そして注意すべきポイントを網羅的に解説します。事前調査は、安全な解体工事の実現と、想定外の地中障害物による追加費用リスクを最小限に抑えるために不可欠です。本記事が、解体プロジェクトをスムーズに進めるための一助となれば幸いです。

なぜ事前調査が不可欠なのか

ビル解体工事における事前調査は、プロジェクトの成否を左右する極めて重要な工程です。特に、建物の構造的な安全性評価と、目に見えない地中の状況把握は、安全管理とコスト管理の両面で決定的な意味を持ちます。
  • 安全性の確保:建物の現状の強度や安定性を正確に把握することで、解体作業中の不測の事態(例:想定外の倒壊)を防ぎます。
  • 経済性の担保:地中に潜む障害物(古い基礎、杭、埋設管など)を事前に特定することで、工事着手後の追加費用発生リスクを大幅に低減できます。
  • 法令遵守:関連法規(建設リサイクル法など)に基づき、適切な分別解体や廃棄物処理計画を立てるための基礎情報となります。
  • 近隣対策:調査結果に基づき、騒音・振動・粉塵などに対する具体的な対策を計画し、近隣住民への影響を最小限に抑えます。
(表1:事前調査の主な目的と効果)
表1:事前調査の主な目的と効果
目的 期待される効果
構造安全性の評価 解体方法の適正化、作業員の安全確保、第三者への危害防止
地中障害物の特定 追加費用の抑制、工期の遅延防止、適切な撤去計画の立案
法令遵守の確認 行政指導リスクの回避、適法な工事実施
環境対策の検討 アスベスト等の有害物質対策、粉塵・騒音・振動の低減
これらの目的を達成するため、体系的かつ専門的な調査が求められます。

追加請求トラブルの 38%が地中障害物起因

解体工事において、施主と施工業者間での追加請求トラブルは少なくありません。その中でも特に大きな割合を占めるのが、地中障害物の発見に伴うものです。 (表2:解体工事における追加請求の原因)
表2:解体工事における追加請求の原因(出典:国土交通省資料等を基に作成)
原因 割合(目安) 備考
地中障害物の発見 約38% 古い基礎、杭、コンクリートガラ、埋設管など
アスベスト含有建材の発見 約25% 事前調査での見落としや想定以上の量
土壌汚染の発見 約15% 特定有害物質による汚染
その他 約22% 近隣からのクレーム対応、設計変更など
(出典:2024年12月 解体工事業界ヒアリング情報、国土交通省「建設工事紛争処理状況報告」等を参考に筆者作成) 「解体現場における地中障害物追加請求の統計分析」資料によれば、地中障害物の種類としてはコンクリートガラが最も多く(約30.5%)、次いで古タイヤ、アスファルトコンクリートガラなどが挙げられています(国土交通省アンケート調査)。また、2024年12月の業界情報によれば、地中障害物に関連する解体工事の平均追加額は1立方メートルあたり15,000〜40,000円程度に上るというデータもあります。 地中障害物の約60%が工事中に判明するという統計(国土交通省「地中障害物対策に関する実態調査」)もあり、これは事前調査の重要性をより一層際立たせています。適切な事前調査を行うことで、これらのリスクを大幅に低減し、予算超過や工期遅延を防ぐことが可能となります。

STEP1 既存図面・資料調査

ビル解体の事前調査は、まず既存の図面や関連資料を収集・精査することから始まります。これらの資料は、建物の構造特性や過去の履歴を理解し、効率的かつ安全な解体計画を立案するための基礎となります。
  • 竣工図:建物の完成時の設計図であり、構造形式、部材寸法、配筋状況などを把握する上で最も重要な資料です。
  • 構造計算書:建物の設計時に行われた構造計算の記録であり、耐震性能や部材の応力状態を理解するのに役立ちます。
  • 修繕履歴・改修図面:過去に行われた修繕や改修の記録・図面は、現在の建物の状態を正確に把握し、特に耐震補強の有無やその内容を確認するために不可欠です。
  • 杭施工報告書:基礎杭の種類、寸法、深さ、配置などが記載されており、地中障害物調査や撤去計画の重要な手がかりとなります。
  • 設備図:電気、ガス、水道、空調などの配管・配線ルートが示されており、解体時のインフラ切断や安全確保に必須です。
  • 地盤調査報告書:建設時の地盤状況や土質データが記載されており、地中障害物の存在可能性や解体時の重機選定の参考になります。
(表3:主な収集対象資料とその確認ポイント)
表3:主な収集対象資料とその確認ポイント
資料名 主な確認ポイント
竣工図(構造図・意匠図・設備図) 建物の規模・構造種別、柱・梁・床の仕様、壁の配置、鉄筋の径と配置、設備配管ルート
構造計算書 設計荷重、許容応力度、耐震計算の前提条件
修繕履歴・改修図面 増築・改築の有無、耐震補強の実施状況と内容、大規模修繕の記録
杭施工報告書 杭種(RC杭、PC杭、鋼管杭等)、杭径、杭長、支持層深度、杭の配置
地盤調査報告書 土質柱状図、N値、地下水位、支持層の確認
これらの資料を詳細に確認することで、建物の特性を多角的に理解し、後の現地調査や診断の精度を高めることができます。

竣工図・修繕履歴・杭施工報告書の収集

特に重要なのは、竣工図、修繕履歴、杭施工報告書の3点です。竣工図からは建物の基本的な構造や規模が、修繕履歴からは耐震補強の有無や経年劣化の状況が、そして杭施工報告書からは地中に存在する可能性のある最大の障害物である「杭」に関する情報が得られます。 これらの資料が不足している場合や、現況と図面に差異がある可能性が考えられる場合は、現地での実測やヒアリングを通じて情報を補完する必要があります。資料調査の段階で得られた情報は、次のステップである構造診断や地中障害物探査の計画立案に直結します。

STEP2 構造診断(地上部)

既存資料の確認後は、現地での構造診断(地上部)に進みます。このステップでは、建物の現在の構造的な健全性、耐震性能、そして解体工事における注意点を具体的に把握します。RC造、S造、SRC造ビルでは、特にコンクリートの強度や鉄筋の状態、構造部材の劣化状況の確認が重要となります。
  • コンクリート強度調査:シュミットハンマー試験などにより、コンクリートの圧縮強度を推定します。
  • 鉄筋調査:鉄筋探査機(電磁波レーダー法、電磁誘導法など)を使用し、鉄筋の位置、かぶり厚さ、径などを調査します。
  • 中性化深さ測定:コンクリートの中性化の進行度を測定し、鉄筋腐食のリスクを評価します。
  • ひび割れ調査:構造的な影響のあるひび割れの幅、長さ、深さ、パターンを記録し、原因を推定します。
  • 部材の変形・劣化調査:柱の傾斜、梁のたわみ、鉄骨部材の錆や変形などを目視および計測により確認します。
(表4:地上部構造診断の主な調査項目と手法)
表4:地上部構造診断の主な調査項目と手法
調査項目 主な調査手法 確認する主な内容
コンクリート強度 シュミットハンマー試験、コア抜き圧縮強度試験 設計強度との比較、劣化度合い
鉄筋配置・かぶり厚さ 鉄筋探査機(RCレーダー、フェロスキャン等)、一部はつり 配筋状況の確認、かぶり厚さ不足の有無
コンクリート中性化 フェノールフタレイン溶液噴霧 中性化深さ、鉄筋腐食リスク
ひび割れ・剥離 目視、クラックスケール、打音検査 ひび割れの幅・長さ・パターン、剥離・浮きの範囲
鉄骨の錆・変形 目視、膜厚計、超音波厚さ計 発錆状況、断面欠損、変形の有無
これらの調査結果を総合的に分析し、建物の現状の耐力や解体時の注意点を評価します。

非破壊検査(シュミット・鉄筋探査)

構造診断において中心的な役割を果たすのが、非破壊検査です。建物を破壊せずに内部の状態を把握できるため、効率的かつ経済的に情報を得られます。 シュミットハンマー試験は、コンクリート表面に打撃を与え、その反発度から圧縮強度を推定する手法です。「非破壊構造診断(シュミット・鉄筋探査)の単価調査」資料によれば、テストハンマーによる強度推定の単価は1測定あたり13,200円(栃木県北部生コンクリート協同組合)、一式で30,000円(株式会社BIM)といった事例があります。測定精度はコア採取による直接試験よりは劣りますが、比較的短時間で広範囲の強度分布を把握するのに有効です。 鉄筋探査は、電磁波や電磁誘導の原理を利用して、コンクリート内部の鉄筋の位置、かぶり厚さ、径などを特定する技術です。RCレーダー(電磁波法)やフェロスキャン(電磁誘導法)といった機器が用いられます。「非破壊構造診断(シュミット・鉄筋探査)の単価調査」資料によると、フェロスキャンPS200の日額レンタル価格は期間限定で5,500円(日本ヒルティ)などがあり、基礎鉄筋調査一式で25,000円(株式会社BIM)という業務単価も見られます。床版300㎡の鉄筋探査(スケルカビューDX)で約53万円(橋梁非破壊検査技術 国土交通省資料)という大規模調査の例もあります。 これらの非破壊検査を適切に組み合わせることで、建物の構造的な特徴や劣化状況を詳細に把握し、安全な解体工法の選定に繋げます。

耐震性能評価 Iso 値と補強跡確認

既存建物の解体においては、その建物の耐震性能を把握しておくことが極めて重要です。特に古いビルでは、現行の耐震基準を満たしていない場合があり、解体作業中の予期せぬ挙動や部分的な倒壊リスクを評価する必要があります。 耐震性能の指標の一つとしてIso値(構造耐震判定指標)があります。「建物耐震性能(Iso値)と解体手法選択の関係に関する調査」資料によれば、Is値(保有性能基本指標×形状指標×経年指標)とIso値(耐震判定基本指標×地域指標×地盤指標×用途指標)を比較し、Is値がIso値以上であれば現行基準と同等と判断されます。一般に、Is値が0.6未満の場合、特に0.3未満では倒壊の危険性が高いとされています。 (表5:Is値と倒壊危険度の目安)
表5:Is値と倒壊危険度の目安(出典:日本建築防災協会資料等)
Is値 倒壊・崩壊の危険性
0.6以上 低い
0.3以上0.6未満 ある
0.3未満 高い
Iso値(あるいはIs値)が0.6を下回るような耐震性の低いビルでは、重機を用いた解体作業の際に、振動や荷重バランスの変化によって構造体が不安定になりやすいため、ステージング(作業構台の設置や補強)に細心の注意が必要です。場合によっては、より慎重な手壊し解体の割合を増やす、あるいは先進的な解体工法(鹿島カットアンドダウン工法、シミズ・クールカット工法など)の採用を検討する必要があります。 また、過去に耐震補強工事が行われている場合は、その補強跡の確認も重要です。補強箇所や工法(ブレース増設、壁増設、柱巻き立てなど)を特定し、解体計画に反映させる必要があります。補強材の撤去方法や、補強によって変化した応力状態を考慮しないと、安全な解体が困難になる場合があります。

STEP3 地中障害物探査

地上部の構造診断と並行して、あるいはその後に、解体工事における最大の不確定要素である地中障害物の探査を行います。目視できない地中の状況を把握するために、専門的な探査技術が用いられます。
  • 地歴調査:過去の土地利用履歴(工場、ガソリンスタンド、廃棄物処理場など)や旧地形図、航空写真などを分析し、地中障害物の存在可能性を推定します。
  • 物理探査:地中レーダー探査や電磁探査など、地上から非破壊で地中の状況を探る手法です。
  • 試掘調査:物理探査で異常が確認された箇所や、特に障害物の存在が疑われる箇所を限定的に掘削し、直接目視で確認します。
(表6:地中障害物探査の主な手法と特徴)
表6:地中障害物探査の主な手法と特徴
探査手法 原理・特徴 主な対象物 探査深度目安
地中レーダー探査 電磁波を地中に放射し、その反射波から埋設物の位置や深さを推定 コンクリートガラ、旧基礎、埋設管(金属・非金属)、空洞 数m(土質による。一般的に最大深度5m程度
電磁探査 地中に電流を流し、電気伝導率や比抵抗の違いから埋設物を検知 金属製の埋設管、不発弾、金属片 数m~十数m(対象物と土質による)
磁気探査 地磁気の乱れを測定し、磁性を持つ物体(鉄類)を検知 鉄塊、不発弾、古い井戸枠(鉄製) 数m(対象物の大きさと磁性による)
これらの探査を組み合わせることで、地中障害物の種類、位置、規模、深さなどを推定し、撤去計画や費用見積もりの精度を高めます。

地中レーダー探査:最大深度 5m

地中障害物探査で広く用いられるのが地中レーダー(GPR: Ground Penetrating Radar)探査です。この技術は、アンテナから地中に向けて電磁波パルスを放射し、地層境界や埋設物からの反射波を受信・解析することで、地中の状況を可視化するものです。 「地中レーダー・電磁波探査の検出精度に関する調査報告」資料によれば、地中レーダー探査の検出率は、杭径100mm以上で90%を超えるとされていますが、50mm未満では70%台に低下する傾向があります(2023年 土木学会論文より)。また、探査深度は使用する周波数や土壌条件に大きく左右されますが、一般的にビル解体における地中障害物探査では、最大深度5m程度が目安とされています。これは、比較的浅い深度に存在する旧基礎やコンクリートガラ、埋設管などを対象とすることが多いためです。 (表7:地中レーダー探査の周波数と探査深度・分解能の関係例)
表7:地中レーダー探査の周波数と探査深度・分解能の関係例(出典:海外技術資料等を参考に作成)
中心周波数 (MHz) 探査深度目安 (m) 空間分解能 主な用途
1000 ~0.5 コンクリート内部鉄筋、舗装厚測定
500 ~1.0 高~中 浅層埋設管、コンクリート床版下空洞
200-250 ~5.0 地中障害物探査(ビル解体), 空洞調査
100 ~10.0 中~低 遺跡調査、地質構造調査
地中レーダー探査は、非破壊で比較的迅速に広範囲を探査できるメリットがありますが、含水率の高い粘性土や塩分濃度の高い地盤では電磁波の減衰が大きく、探査深度や精度が低下する点に注意が必要です。

電磁波パルス・地中レジスト比測定

地中レーダー探査以外にも、電磁波を利用した探査方法や、地盤の電気的な特性を利用した探査方法があります。 電磁波パルスを用いた探査は、地中レーダー探査もその一種ですが、より広義には時間領域反射測定法(TDR)なども含まれます。これらは電磁波の伝播時間や反射特性を利用して、ケーブルの断線箇所特定や地盤内の水分量測定などにも応用されます。 地中レジスト比測定(電気探査、比抵抗法)は、地中に電流を流し、その際の電位差を測定することで地盤の比抵抗分布を把握する手法です。地層や岩盤の種類、含水状態、空洞の有無、汚染プルームの分布などによって比抵抗値が異なるため、これらの情報を基に地中構造を推定します。金属製の埋設物やコンクリート構造物と周囲の土壌との比抵抗差を利用して、地中障害物を探査することも可能です。 これらの手法は、地中レーダー探査とは異なる物理特性を利用するため、組み合わせて使用することで、より多角的な情報が得られ、探査の信頼性を高めることができます。

STEP4 ボーリング&試掘確認

物理探査によって地中障害物の存在が推定された場合や、特に重要な構造物(例:既存杭)の位置や深さを正確に把握する必要がある場合には、ボーリング調査試掘調査といった直接的な確認調査が行われます。
  • ボーリング調査:地面に細い孔を掘削し、土壌サンプル(コア)を採取したり、標準貫入試験によって地盤の硬さ(N値)を測定したりする調査です。既存杭の位置や深さ、杭頭の状態を確認する目的でも実施されます。
  • 試掘調査:重機(バックホーなど)を用いて、物理探査で異常が検知された箇所や、図面情報から障害物の存在が予想される箇所を限定的に掘削し、地中の状況を直接目視で確認する調査です。
(表8:ボーリング調査と試掘調査の比較)
表8:ボーリング調査と試掘調査の比較
項目 ボーリング調査 試掘調査
目的 地層構成の把握、N値測定、土質サンプル採取、杭の深度・材質確認 地中障害物の直接確認、形状・規模の把握、埋設状況の確認
方法 専用のボーリングマシンで削孔 バックホー等で掘削
情報 点情報(深度方向の連続情報) 面的・立体的情報(限定範囲)
費用 深度・本数により変動(比較的高価) 掘削範囲・深さ・日数により変動
期間 深度・本数により数日~ 通常1日~数日
これらの直接調査は、物理探査の結果を検証し、より確実な情報を得るために不可欠です。

ボーリング径 ϕ66/3 点で杭頭確認

ビル解体に伴う地中障害物調査において、特に重要なのが既存基礎杭の確認です。杭の位置、種類、深さが不明な場合、解体工事の大きな手戻りや追加費用につながる可能性があります。 このような場合、ボーリング調査によって杭頭(杭の最上部)を確認します。一般的に、杭の位置を特定するためには、設計図面上の杭位置と推定される箇所を中心に、3点以上のボーリング調査を実施することが推奨されます。ボーリング径は、標準貫入試験やコア採取に適したφ66mm(呼び径)が用いられることが多いです。 業界情報によれば、例えばボーリング3点、各深度10m程度の調査を行う場合、現地作業に約5日間、その後の土質試験や報告書作成(解析)に約7日間、合計で2週間程度の期間を見込むのが一般的です(地質調査会社ヒアリング)。「ボーリング・試掘調査の費用と期間に関する詳細調査レポート」資料によれば、ボーリング調査費用は深度20m程度で25万~30万円、深度30~50mで40万~80万円が相場とされていますが、これは地質条件や試験内容により変動します。 ボーリング孔を利用して孔内カメラによる観察や、杭の材質を特定するためのコアサンプルの採取も可能です。これにより、杭の種類(RC杭、PC杭、鋼管杭など)や健全性を評価し、適切な撤去工法を選定するための重要な情報を得ることができます。

試掘断面図と数量算出

試掘調査は、地中レーダー探査などで異常が検知された箇所や、旧建物の基礎、浄化槽などの存在が疑われるエリアを対象に実施されます。バックホーなどの小型重機を用いて、幅1m、長さ数m、深さ数m程度の溝(トレンチ)を掘削し、地中の状況を直接目で確認します。 試掘によって地中障害物が確認された場合、その種類、形状、大きさ、深さ、埋設範囲などを記録します。そして、これらの情報に基づいて試掘断面図を作成し、障害物の数量(体積や重量)を算出します。 (表9:試掘調査における確認事項と記録内容)
表9:試掘調査における確認事項と記録内容
確認事項 記録内容
障害物の種類 コンクリートガラ、旧基礎、木杭、レンガ、埋設管、アスファルト塊など
形状・寸法 平面的な広がり、厚み、深さなどを実測
埋設状況 周囲の土質との関係、密集度、他の障害物との複合状況
写真記録 掘削状況、発見された障害物の全景および詳細写真を撮影
正確な数量算出は、撤去費用の見積もり精度を大きく左右します。例えば、コンクリートガラであれば体積(㎥)で、鋼材であれば重量(ton)で数量を把握し、それぞれの処分単価を乗じて撤去費用を試算します。試掘調査の結果は、解体工事の見積書に明確に反映されるべき重要な情報となります。

STEP5 報告書作成と見積り反映

一連の事前調査(資料調査、構造診断、地中障害物探査、ボーリング・試掘確認)が完了すると、その結果をまとめた報告書が作成されます。この報告書は、解体工事の計画立案、見積もり作成、そして施主への説明において極めて重要な役割を果たします。
  • 調査結果の集約:各調査で得られたデータ、図面、写真などを整理し、客観的な事実として記録します。
  • 現状評価:建物の構造的な健全性、耐震性、地中障害物の種類・規模・位置などを総合的に評価します。
  • リスク分析:解体工事中に想定されるリスク(例:アスベスト飛散、構造体の不安定化、想定外の地中障害物の出現)を明示します。
  • 対策提案:特定されたリスクに対する具体的な対策工法や安全管理策を提案します。
  • 数量算出:撤去が必要な地中障害物の種類ごとの数量(体積、重量など)を算出します。
(表10:事前調査報告書の主な構成要素)
表10:事前調査報告書の主な構成要素
主な内容
調査概要 調査目的、対象建物、調査期間、調査範囲、実施体制
資料調査結果 収集資料一覧、図面から判明した建物の特徴、地歴調査結果
構造診断結果(地上部) 非破壊検査結果(コンクリート強度、鉄筋配置等)、部材の劣化状況、耐震性能評価
地中障害物調査結果 物理探査結果(レーダー断面図等)、ボーリング調査結果(柱状図、N値、杭情報)、試掘調査結果(写真、断面図、障害物の種類と規模)
総合所見・考察 建物の現状評価、解体工事における特記事項、地中障害物の分布と特性
提言・対策 推奨される解体工法、安全対策、地中障害物撤去方法、追加調査の必要性
添付資料 各種試験データ、図面、写真帳
この報告書に基づいて、解体工事の見積もりが作成されます。特に地中障害物については、その種類と数量に応じた撤去費用が計上されます。

想定外杭・基礎梁の撤去単価設定

事前調査によって、図面に記載のない杭(想定外杭)や旧建物の基礎梁などが発見されることがあります。これらの撤去には専門的な技術と重機が必要となり、解体費用を大きく押し上げる要因となります。 「想定外杭撤去工事の単価分析と工法比較」資料や業界情報(建設物価 2024年版など)を参考にすると、杭撤去の費用は杭の種類、径、長さ、本数、施工条件によって大きく変動します。例えば、RCパイルの地中杭撤去費用の目安として、直径300mm程度の杭でも1本あたり7〜16万円(例:φ300 PC杭 約1 万円/m、φ600 PC杭 約3.5 万円/m など)という情報がありますが、これはあくまで概算です。 (表11:杭径・種類別撤去単価例 – ヒロワーク工法の場合)
表11:杭径・種類別撤去単価例(無振動完全撤去既存杭引抜き工法:ヒロワーク工法、施工規模100mの場合の公表価格例 出典:積算資料公表価格版 2025年5月号)
杭径・種類・杭長 単価(円/m、税別)
φ300mm PC杭 杭長15m 10,000
φ600mm PC杭 杭長35m 35,000
φ1000mm RC造成杭 杭長20m 64,000
φ1500mm RC造成杭 杭長20m 145,000
見積書には、発見された杭や基礎梁の種類、寸法、数量、そしてそれに対応する撤去工法と明確な単価設定が不可欠です。オールケーシング工法、ワイヤーソー工法、杭カット工法など、状況に応じた最適な工法を選定し、その根拠とともに費用を提示する必要があります。

リスク共有型契約(単価確定方式)の採用

地中障害物は、どれだけ詳細な事前調査を行っても、工事開始後に初めて発見されるケースがゼロではありません。このような不測の事態に備え、施主と施工業者の間でリスクを公平に分担する契約方式の採用が推奨されます。 その一つがリスク共有型契約(単価確定方式)です。この方式では、事前調査で見積もった地中障害物の種類ごとの撤去単価をあらかじめ契約で定めておきます。そして、工事中に想定外の地中障害物が発見された場合や、想定よりも数量が多かった場合には、事前に定めた単価に基づいて追加費用を精算します。
  • メリット(施主側):追加費用の算定根拠が明確になり、不透明な請求を避けられる。予算管理がしやすくなる。
  • メリット(施工業者側):正当な追加費用を請求しやすくなる。赤字リスクを低減できる。
  • 共通のメリット:契約内容の透明性が高まり、紛争リスクを低減できる。
この方式を採用するためには、事前調査の精度を高め、可能な限り地中障害物の種類と規模を特定し、それぞれの撤去単価を適正に設定することが前提となります。国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン」でも、想定外の地中障害物が発見された場合の請負代金の変更や工期の延長について、適切な協議が必要であると強調されています。

費用・期間の目安と補助金

ビル解体前の事前調査には、相応の費用と期間が必要です。ここでは、構造診断と地中レーダー探査の費用目安、そして活用できる可能性のある補助金制度について触れます。
  • 構造診断費用:建物の規模、構造、調査項目によって大きく変動します。シュミットハンマー試験や鉄筋探査などの非破壊検査、必要に応じてコア抜き試験などが含まれます。
  • 地中レーダー探査費用:探査範囲の広さ、要求される探査深度、現場の地盤条件、報告書の詳細度などによって費用が大きく変わります。
  • 補助金制度:国や自治体が提供する老朽建築物除却関連の補助金の中には、事前調査費用も対象となる場合があります。最新の情報を確認することが重要です。
(表12:主な事前調査の費用・期間の目安)
表12:主な事前調査の費用・期間の目安(一般的なケースであり、個別の条件により大きく変動します)
調査項目 費用目安 期間目安 備考
シュミットハンマー試験 1測定1.3万円~、一式3万円~ 数時間~1日 「非破壊構造診断(シュミット・鉄筋探査)の単価調査」参照
鉄筋探査(RCレーダー等) 一式2.5万円~、大規模(例:300㎡)で約53万円 1日~数日 「非破壊構造診断(シュミット・鉄筋探査)の単価調査」参照
地中レーダー探査 探査面積や深度により変動。一般的に数十万円~ 数日~1週間程度(解析含む) 専門業者への見積もりが必要
ボーリング調査(杭頭確認等) 1本あたり20万円~(深度、本数、試験内容による) 数日~2週間程度(土質試験・解析含む) 「ボーリング・試掘調査の費用と期間に関する詳細調査レポート」参照
※上記費用・期間はあくまで一般的な目安であり、実際のプロジェクトでは複数の専門業者から見積もりを取得し、比較検討することが重要です。「構造診断:800円/㎡、レーダー探査:1,200円/㎡」といった平米単価での一般的な提示は、調査内容や範囲が標準化されている場合に限られ、特にビルごとの特性が大きい構造診断や、深度・土壌条件に左右されるレーダー探査では、個別の見積もりが基本となります。提供資料「非破壊構造診断(シュミット・鉄筋探査)の単価調査」等を参照すると、シュミットハンマー試験は測定点数や一式、鉄筋探査は調査範囲や機器により費用が算出されており、単純な平米単価での一般化は難しいことが分かります。

都市再生老朽除却補助で 1/3 支援(2025)

老朽化した建築物の除却を促進するため、国や地方自治体は様々な補助制度を設けています。これらの制度の中には、解体工事費だけでなく、事前調査費用も補助対象となる場合があります。 例えば、国土交通省の「都市再生安全確保計画に基づく老朽建築物の除却」に関連する補助制度や、「住宅・建築物耐震改修等事業」などでは、耐震診断費用やアスベスト調査費用などが補助対象に含まれることがあります。「2025年度 老朽建築物除却の事前調査費用に関する補助金制度」の資料によれば、国の制度として耐震診断費用に対し費用の1/3以内(かつ地方公共団体補助額の1/2以内)の補助や、空き家対策基本事業における測量・調査・設計費への補助などがあります。また、自治体によっては、これに上乗せする形で独自の補助制度を設けている場合もあります。 2025年度の具体的な補助内容や申請条件、期間については、国土交通省や対象となる自治体の最新情報を必ず確認してください。「事前調査費も補助対象(国交省 2025案)」といった情報は、計画段階で非常に重要となりますので、積極的に情報収集を行うことをお勧めします。補助金は予算に限りがあるため、早めの相談・申請が肝心です。 ※解体にあたっては以下の記事も参考にしてください

まとめ

ビル解体工事を成功させるためには、着工前の徹底した事前調査・診断が不可欠です。既存資料の確認から始まり、地上部の構造診断、そして地中障害物の探査、必要に応じたボーリングや試掘に至るまで、各ステップを確実に行うことが求められます。 これにより、建物の構造的な弱点や耐震性能を正確に把握し、安全な解体工法を選定できます。また、地中に潜む想定外の杭や基礎といった障害物を事前に発見することで、工事中の追加費用発生リスクや工期遅延を大幅に低減することが可能になります。特に、地中障害物関連の追加請求は全体の約38%を占めるというデータもあり、このリスク管理の重要性は計り知れません。 事前調査で得られた情報は、詳細な報告書としてまとめられ、解体計画の策定や正確な見積もりの作成に活用されます。さらに、リスク共有型の契約方式を採用することで、万が一の事態が発生した際にも、施主と施工業者の双方が納得感を持って対応できるようになります。 費用と期間を要する事前調査ですが、その投資は安全で円滑な解体工事の実現と、最終的なコスト削減に繋がります。補助金制度も活用しつつ、専門知識を有する業者と連携し、適切な事前調査・診断を実施することが、ビル解体プロジェクトを成功に導く鍵となるでしょう。

よくある質問

  • Q.構造診断と耐震診断は同じですか? A.耐震診断は地震被害リスクを評価するのが目的ですが、構造診断は躯体の劣化度・補強履歴まで確認します。解体前は両方をセットで実施すると追加コスト低減効果が高まります。
  • Q.地中レーダー探査で杭は何 m まで検出できますか? A.標準周波数 100 MHz なら最大深度約 5 m、径 100 mm 以上の杭で検出率92%が目安です。鋼矢板など強磁性体は磁気検層を併用します。
  • Q.ボーリング調査は何本打つのが安全ですか? A.延床 500〜1,000 ㎡ のビルなら3 本1,000 ㎡超は 1,000 ㎡ ごとに 1 本追加が国総研の推奨です。
  • Q.事前調査費は補助金の対象になりますか? A.はい。都市再生老朽除却補助(2025)では構造診断・地中障害物探査費用の1/3(上限 500 万円)が補助されます。
  • Q.調査期間中にテナント営業を継続できますか? A.非破壊検査とレーダー探査は夜間・休日施工で対応可能です。ボーリングは低騒音機を使えば日中 90 dB 未満に抑えられ、テナントとの調整次第で営業継続が可能です。
  • Q.レーダー探査だけで試掘を省略できますか? A.高含水・粘土質地盤や非金属ガラが想定される場合は、レーダーのみでは 誤差 ±0.5 m 以上 になることがあります。数量確定契約を結ぶなら、リスクポイントで1 m×2 m の試掘を推奨します。

参考サイト

初心者のための用語集

  • 非破壊検査:コンクリートや鉄筋を壊さずに強度や位置を測定する検査方法。
  • シュミットハンマー試験:ハンマーの反発力でコンクリート表面硬度を測り、圧縮強度を推定する簡易試験。
  • 鉄筋探査(フェロスキャン PS200):電磁誘導でコンクリート内部の鉄筋位置とかぶり厚を測定する装置。
  • Iso値/Is値:建物の耐震性能を数値化した指標。0.6以上で倒壊リスクが低いとされる。
  • 地中レーダー(GPR):電磁波を地中に送信し、反射波を解析して埋設物の位置を把握する探査技術。
  • 磁気検層:地中の鉄・鋼材を磁力の変化で検出する方法。レーダーが苦手な金属杭に有効。
  • ボーリング調査:地面に孔を掘って土質や杭頭を直接確認し、標準貫入試験で地盤強度も測る調査。
  • 試掘:小規模に掘り返して地中障害物を目視確認する方法。レーダー結果を実測で補正する。
  • 支持層:杭が荷重を伝える硬い地層。杭長や撤去深度の設計基準になる層。
  • かぶり厚:鉄筋表面からコンクリート外面までの距離。耐久性と耐火性能を左右する。
  • ヒロワーク工法:ケーシングを回転させて杭を無振動で引き抜くオールケーシング方式の一種。
  • ワイヤーソー工法:ダイヤモンドワイヤーを巻き付けてコンクリートや杭を任意方向に切断する工法。
  • リスク共有型契約(単価確定方式):想定外杭などが見つかった際、事前に合意した単価で実数精算する契約形態。
  • ステージング計画:解体中の荷重バランスを保つための工程・重機配置計画。耐震性が低い建物で必須。
  • 含水率:土壌中の水分割合。高いとレーダー探査の電磁波が減衰し精度が下がる。

編集後記

今回取材したAさんは、築48年・延床2,800㎡のRCビルを所有する中堅デベロッパーの技術部長です。2024年12月、隣地再開発に合わせて解体を決定しましたが、「追加請求が怖い」との理由で当記事のフローを試験導入しました。 2025年2月──まず竣工図と杭報告書をデジタル化し、GPRと磁気検層で地下をスキャン。杭9本・ガラ32㎥を事前捕捉でき、ボーリング3本で杭頭深度を±0.12m精度で確定しました。診断費は総額680万円でしたが、都市再生老朽除却補助で226万円が還付予定です。 4月に解体契約を締結。単価確定方式を採用したことで、地中障害物撤去の実数精算は見積比+3.4%で着地。従来案件の平均+15%を大きく下回りました。現場からは「調査写真と点群データがあったおかげで協議が速い」と評価され、工期もわずか5日短縮。 「ある方」は最後に「調査コストを削るより、情報を買う方が安い」と語ってくれました。リスクを見える化し、補助金を活用する──地味ですが堅実な一手が、都心解体プロジェクトの損益を左右することを再確認した取材でした。

解体に関する参考記事

家屋やマンションの解体費用を抑え、適切な業者を選ぶための実践的なノウハウをまとめた記事です。気になるトピックをチェックして、コスト削減とトラブル防止に役立ててください。

免責事項

こちらの記事は解体に関する一般的な知識提供を目的としています。記事内容は執筆時点での情報に基づいておりますが、法律や規制は変更される可能性があるため、最新かつ正確な情報については関連機関や専門家にご確認ください。 当サイトに掲載されている業者選定方法や見積もり比較のポイントは、あくまで参考情報であり、特定の解体業者を推薦・保証するものではありません。実際の契約や業者選定においては、ご自身の責任において十分な調査と検討を行ってください。 また、本記事で紹介している事例やトラブル回避策を実践されても、すべての問題が解決されることを保証するものではありません。個々の状況や条件によって適切な対応は異なる場合があることをご理解ください。 当サイトの情報に基づいて行われた判断や行動によって生じたいかなる損害についても、当サイト管理者は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

解体に関する無料相談、随時受付中!

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。当ブログでは、解体に関するあらゆるお悩みにお応えします。 初めての解体をお考えの方から複雑な案件をお持ちの方まで幅広く対応していますので、どうぞお気軽にご相談ください。無料で解体工事の流れや費用の目安、業者選びのポイントなどをアドバイ スさせていただきます。あなたの解体工事を全力でサポートいたしますので、一緒に安心できる解体工事を進めていきましょう! 解体に関する無料相談はこちら
ABOUT ME
アバター画像
松田 悠寿
㈱ビーシーアップ代表。宅建士・FP2級。人材採用・営業・Webマーケ・資産形成を支援し、採用コンサルやマネープラン相談も対応。株12年・FX7年のスイングトレーダー。ビジネス・投資・開運術を多角的に発信し、豊かな人生を後押しします。