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3月は年度末4月からどんなことが変わる?

「4月から何が変わるのか、よく分からないまま新年度を迎えてしまった」「気づいたら社会保険料や法律が変わっていて、余計なコストが発生した」――そんな経験のある経営者や事業担当者は少なくないはずです。2026年4月は、道路交通法から年金制度、雇用保険、民法にいたるまで、暮らしやビジネスに直結する大きな制度変更がまとめて施行されます。本記事では、2026年4月の主な変更点を分野ごとに整理し、事業者・個人がそれぞれ押さえておくべきポイントと具体的な対応策をお伝えします。

Contents

道路交通法の改正 ―― 自転車の青切符・生活道路30km/h・新原付制度

2026年4月1日から施行される道路交通法改正は、日常の移動手段に大きな影響を及ぼします。特に配達業務や現場への移動で自転車・原付を使う事業者にとっては、従業員教育やルール周知が急務です。以下、改正の柱を順に見ていきましょう。

自転車への「青切符」導入

これまで自転車の交通違反は、悪質なケースを除いて口頭注意や指導警告にとどまることが大半でした。しかし2026年4月1日以降、16歳以上の自転車運転者に対して「交通反則通告制度(いわゆる青切符)」が適用されます(警察庁・政府広報オンライン、2024年10月公表)。信号無視、一時不停止、ながら運転、酒気帯び運転など、従来の自動車等と同様の反則行為が対象となり、反則金はおおむね5,000円〜12,000円程度が目安とされています。

飲食店のデリバリー担当者やメッセンジャーを抱える事業者は、従業員の交通違反が増えれば企業イメージに直結します。社内ルールの整備と定期的な安全教育を、施行前に済ませておくことが重要です。

生活道路の法定速度を30km/hに引き下げ

センターラインや中央分離帯のない、幅員5.5m以下の狭い道路(いわゆる生活道路)の法定速度が、従来の60km/hから30km/hへ引き下げられます(2026年9月施行予定、JAF交通安全トレーニングコラム)。住宅地を走行する営業車やトラックは、速度超過による取り締まり強化に備えてドライバーへの周知を徹底する必要があります。

原付の区分見直し

排ガス規制の強化に伴い、従来の50cc原付は生産終了の方向に進んでいます。2026年4月以降は、最高出力を制限した125cc以下のバイクを「新基準原付」として原付一種扱いとする新制度が始まります。現行の原付免許で運転できる車両の範囲が実質的に変わるため、配達業務やスタッフの通勤手段として原付を利用している事業所は、車両の入れ替え計画や免許の確認をしておきましょう。

年金・社会保険の変更 ―― 在職老齢年金の壁が62万円に

高齢の従業員を雇用している事業者や、自身が年金を受給しながら働いているシニア層にとって見逃せないのが、年金制度の改正です。2026年4月からは、働くシニアがより多くの収入を得ても年金が減らされにくくなる仕組みへと変わります。

在職老齢年金の支給停止基準額が62万円へ引き上げ

在職老齢年金とは、厚生年金を受給しながら働く65歳以上の方を対象に、月収と年金月額の合計が一定額を超えると年金の一部が支給停止になる制度です。2025年度までのこの基準額は月51万円でしたが、2026年4月から月62万円に引き上げられます(厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」)。

たとえば、年金月額が15万円で給与が月40万円(合計55万円)の方は、現行制度では月2万円の年金が停止されます。しかし改正後は合計55万円が基準額62万円を下回るため、年金が全額支給されるようになります。人手不足に悩む飲食業や建設業などでは、シニア人材の就労意欲を高める追い風となるでしょう。

確定拠出年金(iDeCo)の拡充

2026年4月からは、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の上限が65歳から70歳に引き上げられるほか、拠出限度額の見直しも予定されています。老後資金の準備期間が延びるため、シニア世代の資産形成にプラスに働きます。事業主としても、従業員への制度周知やマッチング拠出の導入検討が求められます。

雇用保険料率の引き下げ ―― 事業主・労働者ともに負担減

「保険料が下がる」という数少ない朗報もあります。2026年4月から、雇用保険料率が一般の事業で1.45%から1.35%へ0.1ポイント引き下げられます。失業等給付にかかる保険料率が0.7%から0.6%に下がり、事業主・被保険者がそれぞれ0.05%ずつ負担減となります(厚生労働省告示、2026年度雇用保険料率)。

区分 2025年度 2026年度 差額
雇用保険料率(一般の事業) 1.45% 1.35% ▲0.1%
うち労働者負担 0.55% 0.50% ▲0.05%
うち事業主負担 0.90% 0.85% ▲0.05%

月給30万円の従業員であれば、本人負担が月150円、年間で約1,800円の軽減になります。微々たる金額に思えますが、従業員数の多い事業所ではまとまったコスト削減になります。4月以降の給与計算で料率を更新し忘れると過徴収になるため、給与ソフトの設定変更は早めに済ませましょう。

健康保険料率・介護保険料率・子ども子育て支援金の変動

毎年3月分(4月納付分)から切り替わる協会けんぽの保険料率は、事業者にとって給与計算の要です。2026年度は、プラスとマイナスが入り混じる複雑な改定となっています。

医療分の保険料率が引き下げ

協会けんぽの医療分の全国平均保険料率は、2025年度の10.00%から2026年度は9.90%へ0.1ポイント引き下げとなりました。ただし都道府県ごとに異なるため、自社が所属する都道府県の料率を必ず確認してください。

介護保険料率は引き上げ

一方、40歳〜64歳の被保険者が負担する介護保険料率は、1.59%から1.62%へ引き上げです。高齢化の進行によって介護給付費が増加しているためで、今後も上昇傾向が続く見通しです。

子ども・子育て支援金の新設

2026年4月から新たに「子ども・子育て支援金」として0.23%が健康保険料に上乗せされます。こども家庭庁が所管する新制度で、少子化対策の財源として医療保険の仕組みを通じて徴収されるものです。事業主と被保険者で折半負担となるため、給与明細の項目追加や説明資料の準備が必要です。

項目 2025年度 2026年度 増減
医療分保険料率(全国平均) 10.00% 9.90% ▲0.10%
介護保険料率 1.59% 1.62% +0.03%
子ども・子育て支援金 0.23% +0.23%(新設)

総合すると、医療分の引き下げがあるものの、介護保険と支援金の新設・引き上げで、トータルの保険料負担は微増になるケースが多いと見られます。特に40歳以上の従業員比率が高い事業所は影響が大きいため、早めのシミュレーションをおすすめします。

健康保険の被扶養者認定基準の変更 ―― 130万円の壁が「見込み」から「契約」ベースへ

パート・アルバイト従業員を多く雇用する飲食業や小売業にとって、いわゆる「130万円の壁」問題は頭の痛いテーマです。2026年4月から、この壁の判定方法が大きく変わります。

従来、健康保険の被扶養者認定における年間収入130万円未満の判定は、「将来の収入見込み」を基準としていました。これが2026年4月からは「労働契約の内容(賃金)」をベースに判定する方法へ変更されます。たとえば、労働契約上の時給と所定労働時間から算出した年間収入が130万円未満であれば、残業代で一時的に130万円を超えたとしても、すぐに被扶養者から外れることはありません。

この変更は、パート従業員の「年末の就業調整」を緩和する効果が期待されます。繁忙期に人手が足りなくなりがちな飲食業や解体業にとっては、安定した労働力確保につながるポジティブな改正です。ただし契約内容の整備が前提となるため、雇用契約書の見直しや更新を早めに進めておきましょう。

民法改正 ―― 離婚後の共同親権と法定養育費制度の導入

2026年4月1日、改正民法が施行され、離婚後に父母の双方が子どもの親権を持つ「共同親権」が選択肢として加わります。これは1947年の民法改正以来、約80年ぶりとなる親権制度の大改革です。

共同親権の仕組み

改正後は、離婚時に父母が協議のうえ「共同親権」か「単独親権」かを選ぶことができます。協議がまとまらない場合は家庭裁判所が子どもの利益を最優先に判断します。なお、虐待やDV(配偶者間暴力)のおそれがある場合は、必ず単独親権とすることが法律で定められています。

法定養育費制度の新設

養育費の取り決めをしないまま離婚した場合でも、法律上当然に月額2万円の養育費支払い義務が生じる「法定養育費制度」が同日から始まります。さらに養育費の不払いが発生した場合、他の債権よりも優先して弁済を受けられる「先取特権」が付与されます。

経営者としては直接関係がないようにも見えますが、従業員のライフイベント支援やメンタルヘルスケアの観点から、制度の概要を把握しておくことは重要です。離婚前後の手続きが複雑化する可能性もあるため、福利厚生としての法律相談窓口の設置なども検討に値するでしょう。

労働安全衛生法の改正 ―― ストレスチェックの全事業場義務化へ

建設業や解体業をはじめとする現場系の事業者に特に影響が大きいのが、労働安全衛生法の改正です。2026年4月1日から施行される改正では、高年齢労働者への安全対策と治療と仕事の両立支援が努力義務として明確化されます。

高年齢労働者の安全対策の努力義務化

シニア人材の活用が進む一方、高年齢労働者の労働災害は増加傾向にあります。改正法では、転倒防止や作業環境の整備といった安全対策を「努力義務」として位置づけています。特に高所作業や重量物の取り扱いが多い建設・解体の現場では、安全教育の見直しや設備投資が必要になるでしょう。

ストレスチェックの適用拡大

2025年5月の法改正により、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されることが決まりました(施行は公布後3年以内、最長2028年5月)。厚生労働省は2026年2月に「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」を公表しており、早期準備を推奨しています。

現時点では「まだ猶予がある」と考える事業者も多いかもしれませんが、実施体制の構築には時間がかかります。産業医のいない小規模事業場では外部委託先の選定も必要になるため、2026年度中には準備に着手しておくことが望ましいでしょう。

女性活躍推進法の改正 ―― 情報公表義務が101人以上の企業に拡大

2026年4月1日から、改正女性活躍推進法が施行されます。最大のポイントは、情報公表義務の対象企業が大幅に拡大されることです。

公表義務の対象が301人以上から101人以上へ

従来、常時雇用する労働者が301人以上の企業に義務づけられていた「男女の賃金の差異」の情報公表が、101人以上300人以下の企業にも拡大されます。加えて「管理職に占める女性労働者の割合」の公表も、101人以上の企業に新たに義務化されます(厚生労働省「女性活躍の更なる推進に向けて」2026年2月)。

えるぼし認定基準の見直し

女性活躍推進の取り組みが優良な企業に対する「えるぼし認定」の基準も見直されます。新たな基準では、男女の賃金差異に関する要件が追加される見通しです。認定を受けることで公共調達における加点評価を得られるため、建設業の入札参加を検討している企業にとってはメリットがあります。

対象となる企業は、自社の男女間賃金差異を算出し、公表の準備を進める必要があります。給与データの整理やシステム対応を4月までに完了させましょう。

食品・日用品の値上げ ―― 4月は年度替わりの「値上げラッシュ」

法改正だけでなく、家計や飲食業の仕入れコストに直結するのが「値上げ」です。帝国データバンクの調査(2026年2月公表)によると、2026年4月に値上げが予定されている食品は主要メーカーだけで2,278品目にのぼり、年度替わりの単月としては大規模な価格改定となっています。

値上げの主な対象

調味料が最多の1,603品目を占め、酒類・飲料が882品目、加工食品が947品目と続きます。マヨネーズやドレッシング、冷凍食品、パックご飯、即席めんなど、飲食業が日常的に使う食材が幅広く含まれています。さらにティッシュやトイレットペーパーなどの日用品も値上げの対象です。

値上げの背景

帝国データバンクによれば、値上げの最大の要因は「原材料高」(99.9%)で、4年連続で値上げ品目全体の9割を超えました。加えて「物流費」に起因する値上げが61.8%、「人件費」が66.0%と、コスト上昇が複合的に重なっています。

飲食店経営者にとっては、メニュー価格の改定を検討する必要がある局面です。値上げに踏み切る場合は、その理由を顧客に丁寧に伝えることでリピート率の維持が期待できます。また、仕入れ先の見直しやメニューの最適化、フードロス削減など、コスト全体を見直す好機と捉えることもできます。

年度末に経営者・個人がやっておくべきチェックリスト

ここまで紹介した制度変更をふまえ、2026年3月中に確認・対応しておくべき項目を整理します。一つ一つの変更は小さく見えても、複合的に重なると事業コストや運営体制に大きく響きます。

事業者向けチェックリスト

  • 給与計算システムの更新:雇用保険料率(1.35%)、健康保険料率(都道府県別)、介護保険料率(1.62%)、子ども・子育て支援金(0.23%)を反映させる
  • 雇用契約書の整備:被扶養者認定基準の変更に対応するため、時給・所定労働時間を明確に記載する
  • 自転車・原付の交通安全教育:青切符制度の周知と社内ルール策定
  • シニア従業員への制度説明:在職老齢年金の基準額引き上げ(62万円)やiDeCoの拡充を案内する
  • 女性活躍推進法への対応:101人以上の企業は男女間賃金差異・女性管理職比率の公表準備
  • 仕入れコストの見直し:食品値上げに備えた価格交渉や仕入れ先の多角化
  • ストレスチェック体制の検討:50人未満の事業場も将来の義務化を見据えて準備開始

個人・従業員向けチェックリスト

  • 給与明細の確認:4月の給与明細で各種保険料率が正しく反映されているか確認する
  • 扶養の範囲の再確認:パート・アルバイトの方は、新しい認定基準で被扶養者の資格がどうなるかを確認する
  • 自転車の交通ルール確認:青切符の対象行為と反則金を把握しておく
  • 年金受給者の収入シミュレーション:在職老齢年金の新基準額で、自分の年金支給額がどう変わるかを試算する
  • 家計の見直し:食品・日用品の値上げに備えて家計の固定費を見直す

まとめ ―― 情報の先取りがコスト削減と安心につながる

2026年4月は、道路交通法改正、年金制度の見直し、雇用保険・健康保険の料率変更、民法改正による共同親権の導入、女性活躍推進法の強化、そして食品を中心とした値上げラッシュと、実に多くの変化が重なるタイミングです。

一つ一つは「自分には関係ないかもしれない」と感じるかもしれません。しかし、給与計算の料率変更を忘れれば過徴収トラブルに、自転車の青切符を知らなければ従業員の反則金に、仕入れ価格の動向を見落とせば利益の圧迫に――小さな見落としが積み重なると、大きな損失につながります。

年度末のこの3月にこそ、来期に備えた情報収集と社内体制の点検を行いましょう。本記事が、皆さまの新年度を少しでもスムーズにスタートさせる助けになれば幸いです。

よくある質問

  • Q. 自転車の青切符は何歳から対象になりますか?
    A. 16歳以上の自転車運転者が対象です。16歳未満の場合は原則として指導警告にとどまり、反則金の対象にはなりません。
  • Q. 在職老齢年金の62万円はいつから適用されますか?
    A. 2026年4月分(6月支給分)から適用されます。厚生労働省の公式発表では、月収と年金月額の合計が62万円を超えなければ年金が全額支給されるようになります。
  • Q. 雇用保険料率の引き下げで手取りはどれくらい増えますか?
    A. 月給30万円の場合、被保険者負担が月150円減少し、年間で約1,800円の手取り増となります。給与が高いほど軽減額も大きくなります。
  • Q. 共同親権はすべての離婚に適用されますか?
    A. いいえ。共同親権は選択制であり、父母の協議で単独親権にすることも可能です。虐待やDVのおそれがある場合は、家庭裁判所が必ず単独親権を定めるとされています。
  • Q. 健康保険の被扶養者認定基準が変わると、パート従業員は何が変わりますか?
    A. 判定方法が「将来の収入見込み」から「労働契約上の賃金」ベースに変わります。残業代で一時的に年収130万円を超えた場合でも、契約上の年間収入が130万円未満であればすぐに扶養から外れることはなくなります。
  • Q. 子ども・子育て支援金とは何ですか?
    A. 2026年4月から健康保険料に上乗せされる新しい負担で、料率は0.23%です。こども家庭庁が管轄する少子化対策の財源であり、事業主と被保険者が折半で負担します。
  • Q. 食品の値上げはどの程度の規模ですか?
    A. 帝国データバンクの調査(2026年2月公表)では、2026年4月の食品値上げは主要メーカーだけで2,278品目に及び、調味料、酒類・飲料、加工食品が中心です。原材料高・物流費・人件費の上昇が主な要因とされています。

初心者のための用語集

  • 青切符(交通反則通告制度)
    比較的軽微な交通違反に対して交付される通告書のことです。一定期間内に反則金を納めれば刑事手続きに移行せずに処理が完了します。2026年4月から自転車にも適用されます。
  • 在職老齢年金
    厚生年金を受給しながら働いている65歳以上の方に適用される制度です。月収と年金月額の合計が一定の基準額を超えると、年金の一部または全部が支給停止になります。2026年4月から基準額が62万円に引き上げられます。
  • 被扶養者認定
    健康保険において、主に生計を維持されている配偶者や家族を「被扶養者」として保険に加入させる仕組みです。年間収入130万円未満などの要件があり、2026年4月から判定方法が変更されます。
  • 共同親権
    離婚後も父母の双方が子どもの親権を持つ制度です。2026年4月の民法改正で、従来の単独親権に加えて共同親権が選択肢として導入されました。子どもの利益を最優先に、協議または家庭裁判所の判断で決定されます。
  • 法定養育費
    養育費の取り決めをしないまま離婚した場合に、法律上当然に生じる養育費の支払い義務です。2026年4月から制度化され、金額は月額2万円と定められています。不払い時には「先取特権」が認められ、他の債権よりも優先して回収できます。
  • 雇用保険料率
    失業や育児休業などに備えるための保険料の割合です。事業主と被保険者(従業員)がそれぞれ負担します。2026年度は一般の事業で1.35%に引き下げられます。
  • 子ども・子育て支援金
    2026年4月に新設される社会保険上の負担で、少子化対策の財源として健康保険料に上乗せされます。料率は0.23%で、事業主と被保険者が折半して負担します。

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松田 悠志
㈱ビーシアップ代表。宅建士・FP2級。人材採用・営業・Webマーケ・資産形成を支援し、採用コンサルやマネープラン相談も対応。株12年・FX7年のスイングトレーダー。ビジネス・投資・開運術を多角的に発信し、豊かな人生を後押しします。