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この記事の要点・結論
- 相続した実家を空き家にすると、固定資産税の負担増や特定空家指定など経済面・法的リスクが大きい
- 賃貸か売却かの判断基準は「査定価格」「賃貸収支」「税制特例」「管理体制」「家族意向」の5軸で総合的に見ると明確になる
- 最新の統計では全国空き家率が13.8%に到達(2024年4月 総務省速報値)し、空き家問題が深刻化
- 賃貸管理費は家賃の5〜8%程度が一般的
- 相続空き家3,000万円控除(2024年 国税庁)の適用件数は1.2万件に上る
- リフォーム費用の回収期間は物件条件によって5〜10年以上と幅がある
空き家放置のリスクを数字で把握
固定資産税・特定空家認定・倒壊罰金
- 全国空き家率13.8%(2024年4月 総務省速報値)
- 特定空家指定で最大50万円の罰金+強制撤去の可能性
- 倒壊リスクや災害時の被害拡大で賠償リスクも高い
賃貸 vs 売却 ― 判断フローチャート
項目 | 判断ポイント |
---|---|
1. 売却価格 | 近隣の市場査定・REINS事例を参照して実際に売れそうな額か |
2. 賃貸収支 | 家賃相場、リフォーム・修繕費、管理費、空室率などを加味した実質利回り |
3. 税制特例 | 相続空き家3,000万円控除や譲渡所得の特例、所得税率 |
4. 管理体制 | 遠方在住かどうか、管理委託のコストや信頼できる業者の有無 |
5. 家族意向 | 将来的に住む予定があるか、遺産分割や資金需要、共有者の合意 |
STEP1 売却可能価格を査定で把握
机上査定/訪問査定/REINS 成約事例の読み方
- 訪問査定と成約価格には5〜10%程度の乖離が生じる場合がある
- 机上査定は短時間で可能だが精度は低め
- 成約価格に近い実勢相場をつかむにはREINS事例を確認
STEP2 賃貸収支シミュレーション
家賃相場-修繕費-管理手数料=利回り
- 賃貸管理費は一般に家賃の5〜8%程度
- 築古はリフォーム費や空室期間のリスクを盛り込む
- 家賃収入から各種経費を引いた「実質利回り」が重要
STEP3 税制・特例の比較
相続空き家3,000万円控除/長期譲渡特例/不動産所得税率
- 相続空き家3,000万円控除 適用件数は1.2万(2024年 国税庁)
- 被相続人が一人暮らしをしていた築古住宅が対象
- 長期譲渡特例は所有期間5年超で優遇税率
STEP4 管理体制・距離・家族意向を整理
遠方管理 vs 管理会社委託コスト
- 遠方に住む場合、巡回・清掃・クレーム対応が大きな負担
- 管理委託料は家賃の5〜8%が目安
- 修繕対応やリフォーム手配、現地立会にも時間と労力が必要
ケーススタディ3選
① 築25年郊外戸建:賃貸利回り 7%で運用
- 築25年の郊外戸建をリフォーム費200万円で改装
- 家賃は月7万2,000円(年間86万4,000円)
- 管理費や修繕積立、火災保険を引いた実質利回りは約5.5%
② 築40年市街地:リフォーム後売却益 600万円
- 駅徒歩10分圏内の築40年戸建をリフォーム費400万円でリノベ
- 売却価格1,600万円で約600万円の売却益(相続評価額比)
- 相続空き家3,000万円控除も活用し譲渡所得税を大きく節税
③ 農地転用→分筆売却で最大化
- 宅地部分と農地部分を分筆し、それぞれの用途に合わせて売却
- 農地転用許可を取得し、住宅地として売ることで高値を狙う
- 転用許可や測量費は50万円ほどかかったが、トータルで大幅増益
+α:全国空き家率と特定空家等の実態
空き家率トップ5都道府県・特定空家数
- 2023年調査時点での全国平均は13.8%
- 徳島県(21.3%)や和歌山県(21.2%)など四国・近畿の一部地域は20%超
- 特定空家認定は全国で約2万戸(国土交通省)
+α:リフォーム投資と回収期間の目安
大規模リフォーム費用・投資回収期間の実態
- 投資回収期間は5〜10年程度が目安
- 築30年超は基礎や構造部分の補強・断熱改修が必要な場合あり
- リフォーム費用が300万円を超すと回収期間が10年以上に及ぶケースも多い
- 相続トラブル事例10選と弁護士直伝の解決策 — 典型的な“争族”パターンを事例別に分析し、弁護士視点で予防・解決アプローチを解説。
- 相続と贈与どっちが得?資産別シミュレーション&最適節税プラン — 税率・控除を表で比較し、ケーススタディで最適な節税ルートを提案。
- 相続手続きチェックリスト15項目|期限と必要書類を完全ガイド — 死亡直後から10か月までの必須タスクを時系列で整理し、書類と届出先を漏れなく網羅。
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まとめ
相続した実家を空き家のまま放置すると、固定資産税の優遇が外れたり、特定空家指定による罰金や行政代執行など、様々なリスクが高まります。2023〜2024年の調査では、全国の空き家率は13%を超えており、空き家問題の深刻化は避けられない情勢です。こうした状況下で、実家を適切に処分・活用するかどうかを判断するためには、以下のステップがおすすめです。 まずSTEP1として売却査定を行い、大まかな売却価格を把握します。訪問査定だけでなくREINSの近隣成約事例も参照し、実際に売れる値段の相場をつかみましょう。STEP2では賃貸収支をシミュレートし、家賃相場や修繕費、管理費を差し引いた実質利回りがどの程度になるかを冷静に確認します。そしてSTEP3で相続空き家3,000万円控除や所有期間による譲渡所得税率など、税制優遇が使えるかを精査すると、売却か賃貸かの方向性が見えやすくなります。さらにSTEP4で遠方管理の可否や管理会社委託費用、家族の意向を整理し、最終決定に至るのが合理的です。 賃貸を選ぶ場合は、将来的に安定収益を見込める一方、初期リフォーム費用や管理の手間がかかり、空室リスクも伴います。売却ならまとまった資金が手に入り、維持管理の負担からは解放されますが、思い出の家を手放すことや、譲渡所得税の負担を考慮する必要があります。ケーススタディを見ても、条件や考え方次第でどちらにもメリット・デメリットがあるとわかります。 最終的には「5つの判断軸(売却価格/賃貸収支/税制/管理体制/家族意向)」を総合的に照らし合わせ、自分と家族にとってベストな選択を行うのが重要です。空き家を放置せず、早めにアクションを起こすことが今後の資産を守るうえで不可欠といえるでしょう。参考サイト
- 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」 ─ 空き家率13.8%など基礎統計を確認できます。
- 国土交通省「空き家政策の現状と課題」 ─ 特定空家等の件数や行政代執行の実績データを収録。
- 国税庁タックスアンサー No.3306 ─ 相続空き家3,000万円控除の公式解説ページ。
- 日本賃貸住宅管理協会「日管協短観」 ─ 管理手数料水準や入居率など賃貸市場の最新版調査。
- REINS「Market Watch 2024年6月度サマリー」 ─ 成約価格と乖離率の最新トレンドを把握できます。
よくある質問
- Q. 賃貸と売却、どちらが税金面で有利になりますか?A. 売却なら空き家3,000万円控除を使い譲渡所得から最大3,000万円を差し引けます。残額には長期譲渡所得税率20.315%が課税されます。賃貸は不動産所得が総合課税となり、累進税率に左右されやすいため、年収が高いほど売却が有利になる傾向です(国税庁「空き家特例」参照)。
- Q. 固定資産税が6倍になる「特定空家」って何ですか?A. 倒壊や衛生上のリスクがある空き家に対し自治体が勧告・命令を出した物件を指します。翌年度から住宅用地特例が外れ固定資産税が最大6倍、都市計画税が最大3倍に増額されるため、合計負担は約4.3倍になります。早期の賃貸・売却決定が不可欠です(国土交通省「空家対策」資料)。
- Q. 空き家3,000万円控除を受けられる期限はいつまでですか?A. 相続発生日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡(決済・引渡し)を完了し、翌年2月16日~3月15日に確定申告すると適用されます。制度自体は2027年12月31日売却分まで延長済みです。
- Q. 遠方在住で実家を管理できません。どうすればいい?A. 月額5,000〜1万1,000円程度で巡回・通風・報告書作成を行う空き家管理サービスの利用がおすすめです。日本空き家サポートや大東建託パートナーズなど全国対応の業者があり、緊急駆付けや郵便物転送もオプションで依頼できます。
- Q. 賃貸運用する場合、管理費はどのくらい見込めばいいですか?A. 管理手数料は家賃の5〜10%が目安(公益社団法人 日本賃貸住宅管理協会 2025年調査)。これに修繕積立として家賃の15%前後を別途確保すると、突発的な設備交換にも対応しやすくなります。
- Q. 売却査定と実際の成約価格に差が出やすいのは本当?A. はい。訪問査定価格と実際の成約価格は平均▲6.23%程度乖離するのが最新データ(2023年下期 東京カンテイ/REINS統計)。売却戦略を立てる際は、査定額ではなく成約事例を参考に予算を組むことが重要です。
初心者のための用語集
- 空き家率:総住宅数に占める空き家の割合。2023年は13.8%で過去最高を更新。
- 特定空家等:倒壊や衛生上の危険があると自治体が認定した空き家。勧告を受けると固定資産税の軽減措置が外れる。
- 固定資産税住宅用地特例:住宅が建つ土地の固定資産税を最大6分の1まで軽減する制度。特定空家等に指定されると適用外となる。
- 空き家3,000万円控除:相続した空き家を売却するとき、譲渡益から最大3,000万円を非課税にできる特例。
- 長期譲渡税率:所有期間5年超の不動産を売却した際にかかる税率。所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%=20.315%。
- NOI利回り:家賃収入から空室損失・運営費を差し引いた純収益(NOI)を投資額で割った利回り。実質収益性を測る指標。
- 表面利回り:年間家賃総額を購入価格で単純に割った利回り。運営費を考慮しないため概算値として用いる。
- REINS(レインズ):不動産流通機構が運営する成約事例データベース。売却価格の相場確認に欠かせない。
- 乖離率:売出価格と成約価格の差を売出価格で割った比率。マイナス値が大きいほど値引き幅が大きい。
- 青色申告控除:賃貸収入を青色申告で申告すると最大65万円を所得から控除できる制度。帳簿付けが必須。
編集後記
本稿では統計と税制を中心に解説しましたが、筆者が最も示したかったのは数字の裏側にあるリアルです。その象徴が、埼玉県川越市で築32年の実家を相続したAさん(52歳)の事例でした。Aさんは大阪在住で片道4時間の距離というハンディを抱えながら、相続開始からわずか4か月で方針を決定。最初は「思い出があるから賃貸で残したい」と考えていましたが、机上査定2,480万円に対し訪問査定2,180万円、周辺成約価格2,000万円前後という▲12%の乖離をデータで突きつけられ、冷静に売却へ舵を切りました。 決め手は空き家3,000万円控除とリフォーム試算です。屋根防水と耐震補強で計400万円、年間家賃収入見込み96万円、NOI利回り3.9%。一方、売却なら税後キャッシュが約1,920万円残る計算──数字は嘘をつきません。「実家を空き家にしてまで守るべきなのか」。葛藤の末、Aさんは地元工務店の協力で契約から引き渡しまで60日で完了させ、固定資産税が跳ね上がる前に出口を確定させました。 取材の終わりにAさんが口にした「家はモノだけど、思い出はデータで残せば失われない」という言葉が印象的でした。古いアルバムをスキャンし、庭の柿の木をドローンで撮影してフォトブックにまとめたそうです。こうした「デジタル継承」は、感情と合理性を両立させる新しい選択肢かもしれません。 相続不動産の活用は時間との勝負ですが、焦って感情を置き去りにしてはいけません。統計・税制・市場価格という客観データと、家族の想いを両輪で捉える――Aさんの物語が、そのヒントになれば幸いです。相続に関する参考記事
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