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マツダ(7261) 決算発表まとめ・現状・今後の展望・投資戦略
マツダ株式会社(証券コード:7261)が2025年5月12日に発表した2025年3月期通期決算は、売上高が過去最高を更新する一方で、営業利益は減少するという増収減益の結果となりました。この記事では、マツダの最新決算内容、直面する課題、2030年に向けた経営戦略の進捗、そして個人投資家が気になる今後の株価展望と投資戦略について、初心者から中級者の方にもわかりやすく徹底解説します。北米市場でのSUV販売好調や円安効果が売上を押し上げたものの、販売奨励金の増加や品質関連費用が利益を圧迫する構図が浮き彫りになりました。今後の米国関税政策の動向が不透明な中、マツダがどのような舵取りをしていくのか、詳しく見ていきましょう。
マツダとは?基本プロフィール
マツダ株式会社は、広島県に本社を置く日本の大手自動車メーカーです。「走る歓び」を追求したクルマづくりで知られ、魂動(こどう)デザインやSKYACTIV技術など、独自性の高い技術やデザインフィロソフィーを持っています。
国内有数の乗用車メーカー/北米市場が収益の柱
マツダは、国内市場においても存在感を示す乗用車メーカーであり、特にデザイン性や走行性能に優れたモデルで多くのファンを獲得しています。近年の収益構造を見ると、特に北米市場が売上高の大きな割合を占めており、同市場での販売動向が全体の業績を左右する重要な要素となっています。
- 設立: 1920年1月30日(東洋コルク工業株式会社として)
- 本社所在地: 広島県安芸郡府中町新地3番1号
- 代表者: 代表取締役社長兼CEO 毛籠 勝弘(2025年5月時点)
- 主な事業: 乗用車および自動車部品の製造・販売
- 特徴的な技術・デザイン: SKYACTIV TECHNOLOGY、魂動デザイン、ロータリーエンジン(歴史的)
- 海外展開: グローバルに販売網を持ち、特に北米、欧州、アジアで事業を展開
マツダは、独自のブランド戦略と技術開発により、大手メーカーとは一線を画した魅力的な製品ラインナップを展開しています。特に近年は、CXシリーズを中心としたSUVモデルがグローバルで販売を牽引しています。
2025年3月期 決算ハイライト
2025年5月12日に発表されたマツダの2025年3月期(2024年4月1日~2025年3月31日)の連結決算は、売上高が過去最高を記録したものの、利益面では厳しい結果となりました。
売上高・営業利益・最終利益・EPS・配当
2025年3月期の主要な財務指標は以下の通りです。(出典:マツダ株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」2025年5月12日発表)
項目 | 2025年3月期実績 | 対前期増減率 | 備考 |
---|---|---|---|
売上高 | 5兆189億円 | +4.0% | 過去最高、初の5兆円超え |
営業利益 | 1,861億円 | -25.7% | 競争激化による販売奨励金増が影響 |
経常利益 | 1,963億円 | -38.9% | |
親会社株主に帰属する当期純利益 | 1,206億円 | -41.9% | |
1株当たり当期純利益 (EPS) | 191円48銭 | – | 前期329円65銭 |
年間配当金 | 55円 | – | 中間25円、期末30円(前期50円) |
売上高は、北米市場での販売が過去最高を達成したことや、ラージ商品群の販売が堅調に推移したこと、さらに為替の円安効果(対米ドルで前期145円→当期153円)も寄与し、初めて5兆円の大台を突破しました。これはマツダにとって記録的なトップラインの成長です。 しかし、営業利益は前期比で25.7%減の1,861億円となりました。この主な要因として、グローバルな販売競争の激化に伴う販売奨励金の増加や、一部品質課題への対応費用、原材料費や物流費の上昇が挙げられます。親会社株主に帰属する当期純利益も、営業利益の減少や特別損失の計上などにより、前期比41.9%減の1,206億円となりました。
営業利益の増減要因分析
2025年3月期の営業利益の対前期変動要因は以下の通りです。(出典:マツダ株式会社「2025年3月期 決算説明会資料」2025年5月12日発表)
要因 | 増減額(億円) |
---|---|
台数・構成など | +628 |
販売奨励金 | -1,249 |
為替影響 | +439 |
原材料・物流費など | -462 |
コスト改善 | +250 |
固定費その他 | -250 |
合計 | -644 |
この表から明らかなように、販売奨励金の大幅な増加(-1,249億円)が最大の減益要因です。これは、特に主要市場での競争環境が厳しさを増していることを示唆しています。一方で、出荷台数の増加やラージ商品の貢献、高収益な米国市場の成長を含む「台数・構成など」の改善(+628億円)や、円安による「為替影響」(+439億円)、計画通りの「コスト改善」(+250億円)は増益に貢献しました。しかし、これらのプラス要因を販売奨励金の増加や原材料・物流費の上昇(-462億円)、将来成長に向けた研究開発費や減価償却費の増加を含む「固定費その他」(-250億円)が打ち消す形となりました。
地域別実績とグローバル販売台数
2025年3月期のグローバル販売台数および主要地域別の実績は以下の通りです。(出典:マツダ株式会社「2025年3月期 決算説明会資料」2025年5月12日発表)
地域 | 販売台数(千台) | 対前期増減率 |
---|---|---|
日本 | 152 | -5% |
北米 | 617 | +20% |
欧州 | 174 | -3% |
中国 | 74 | -23% |
その他市場 | 285 | -1% |
合計 | 1,303 | +5% |
グローバル総販売台数は130万3千台と、前期比で5%増加しました。特に北米市場が好調で、販売台数は61万7千台(前期比20%増)と過去最高を記録し、全体の成長を牽引しました。米国単独でも43万5千台(前期比16%増)と過去最高の販売を達成し、CX-50やラージ商品群が貢献しました。メキシコも10万6千台(前期比37%増)と大幅な伸びを見せています。 一方で、日本では15万2千台(前期比5%減)と減少。欧州も17万4千台(前期比3%減)となりました。中国市場は、内燃機関車需要の縮小や価格競争の激化により、7万4千台(前期比23%減)と大幅な減少に見舞われ、厳しい状況が続いています。その他の市場も28万5千台(前期比1%減)と微減でした。「北米SUV市場シェアとマツダCXシリーズ販売データ分析」によれば、北米でのCX-50は2024年(暦年)に73,358台(前年比+64.5%)、新型CX-90は54,676台(前年比+77.4%)と、新型SUVが好調なことが伺えます。
2026年3月期 見通しと注目ポイント
マツダは、2026年3月期の連結業績予想について、現時点では「未定」としています。これは主に米国政府による関税政策の動向とその影響が見通せないためです。
業績予想は「未定」― 米国関税政策の動向を注視
- 不透明な経営環境:米国政府の関税政策の具体的な内容や発効時期、対象範囲などが依然として流動的であること。
- 市場への影響:関税が課された場合の車両価格への転嫁の可否、それによる顧客の受容度や市場需要の変動が予測困難であること。
- サプライチェーンへの影響:部品調達などサプライチェーン全体への影響も考慮する必要があること。
毛籠勝弘社長は決算説明会(2025年5月12日開催)で、「現時点では国間交渉の過程にあり、状況は依然として流動的且つボラティリティが高いことから、合理的に先行きを算定できる状況にない」と述べています。マツダは、関税の課税後車両の販売が本格化すると想定される第1四半期決算発表時(2025年7月~8月頃を想定)に、政策動向や影響を精査した上で状況をアップデートする予定です。
マツダの米国関税政策への対応方針
先行き不透明な状況ではありますが、マツダは米国関税政策に対して以下のような基本方針を示しています。(出典:マツダ株式会社「2025年3月期 決算説明会資料」2025年5月12日発表)
- ステークホルダーへの影響最小化:取引先、販売店、そして顧客をはじめとする全てのステークホルダーへの影響を最小限に抑えることを最優先とする。
- 事業と雇用の維持:サプライチェーン上の重要なパートナーと共に雇用と事業を守り抜く。
- 販売台数目標:グローバル販売台数については、可能な限り前年並み(2025年3月期実績:130万3千台)を目指す。
- コスト削減の徹底:変動費や固定費に対し、緊急対応を含めたあらゆる対策を講じ、経営のレジリエンシー(強靭性)強化に全力で取り組む。
マツダは、この大きな危機を経営のレジリエンシーを強化できる機会と捉え、前向きに取り組む姿勢を強調しています。
電動化の進捗と今後のモデル計画
2030年経営方針のフェーズ2(2025年度~2027年度)において、マツダは電動化戦略を具体的に進めていきます。現時点で2026年3月期に特定のEV/PHEVを3車種追加するという明確な計画は今回の決算資料では言及されていませんが、中長期的な電動化の方向性は示されています。
- 電動化マルチソリューションの推進:地域の特性や顧客ニーズに合わせた多様な電動化技術(ハイブリッド、プラグインハイブリッド、バッテリーEV)を提供する。BEV(バッテリーEV)については「意志あるフォロワー」として、協業も活用しながら開発を進める。
- 新型EVモデル:中国市場向けには長安汽車との共同開発車である「MAZDA EZ-6」(BEV/PHEV、2024年10月発売)や、新型電動クロスオーバーSUV「MAZDA EZ-60」(2025年内発売予定)を投入。グローバルでは、自社製BEVの開発と展開も計画。
- 内燃機関の進化とハイブリッド:高効率な次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-Z」や、自社製ハイブリッドシステムの開発・導入を進める。
- 主力モデルの次世代化:次期「CX-5」の開発も進行中。
「日本自動車メーカーのEV/PHEV投資計画とモデル投入スケジュール総括」の資料によると、トヨタやホンダ、日産といった競合他社は巨額のEV投資と具体的な複数車種の投入計画を前倒しで進めており、マツダの「意志あるフォロワー」戦略がどのように市場で受け入れられるか注目されます。
株主還元方針と財務健全性
マツダは、厳しい事業環境下でも株主への安定的な利益還元と財務健全性の維持に努めています。
2025年3月期配当と今後の配当方針
2025年3月期の配当については以下の通りです。(出典:マツダ株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」2025年5月12日発表)
会計期間 | 中間配当金(円) | 期末配当金(円) | 年間配当金(円) | 配当性向(連結) |
---|---|---|---|---|
2024年3月期 | 25.00 | 25.00 | 50.00 | 18.2% |
2025年3月期 | 25.00 | 30.00 | 55.00 | 30.4% |
2026年3月期(予想) | 未定 | – |
2025年3月期の年間配当金は1株当たり55円(中間25円、期末30円)となりました。これは前期の50円から普通配当ベースで増加した形です。利益は減少したものの、キャッシュフローが堅調に推移したことを踏まえ、株主への還元姿勢を維持しました。配当性向は30.4%となり、中期経営計画で掲げる水準を達成しています。 2026年3月期の配当予想については、業績予想が未定であるため、同様に「未定」としています。しかし、マツダは「関税影響の最小化に向けてあらゆる対応策を検討し、株主の皆様への安定配当を目指してまいります」との方針を示しており、経営努力による配当維持への意欲が伺えます。
自己株式取得の方針
今回の2025年3月期決算発表および2026年3月期の見通し説明において、新たな大規模な自己株式取得枠の設定に関する具体的な発表はありませんでした。マツダは、成長投資や財務健全性の維持とのバランスを考慮しながら、自己株式取得を含む株主還元策を適宜検討していくものと考えられます。投資家は、今後の取締役会決議などの発表に注目する必要があります。
財務状況:キャッシュフローとネットキャッシュ
マツダの財務健全性を示す指標も確認しておきましょう。(出典:マツダ株式会社「2025年3月期 決算説明会資料」2025年5月12日発表)
- 営業キャッシュ・フロー: 3,196億円(前期4,189億円)
- 投資キャッシュ・フロー: -2,139億円(前期-1,799億円、電動化投資本格化)
- フリー・キャッシュ・フロー: 1,057億円の黒字(前期2,390億円)
- ネット・キャッシュ: 4,003億円(前期末3,515億円から増加)
- 自己資本比率: 43.8%(前期末45.8%、劣後特約付ローンの資本性考慮後44.7%)
電動化に向けた開発投資が本格化し投資キャッシュフローは増加しましたが、運転資金改善などによりフリーキャッシュフローは1,057億円の黒字を確保しました。これにより、ネットキャッシュ(現金及び現金同等物から有利子負債を差し引いた額)は前期末から488億円増加し、4,003億円となりました。一定の財務的余力を維持していることがわかります。
事業環境とリスク要因
マツダを取り巻く事業環境は、依然として不確実性が高い状況です。特に為替変動や地政学リスクは業績に大きな影響を与える可能性があります。
為替感応度とヘッジ方針
マツダの2025年3月期の営業利益変動要因分析では、為替影響が+439億円の増益要因として計上されています。期中平均為替レートは、対米ドルで153円(前期145円)、対ユーロで164円(前期157円)と円安が進行しました。一般的に、輸出比率の高い自動車メーカーにとって円安は追い風となります。「為替感応度とヘッジ方針:企業の財務戦略分析」の資料では、様々な企業の為替感応度が示されていますが、マツダが公表している最新の具体的な感応度(例:1円の円安で営業利益XX億円増など)は今回の決算資料では明示されていませんでした。しかし、過去の傾向や事業構造から、引き続き為替動向が業績に与える影響は大きいと考えられます。マツダは為替予約などを活用したヘッジも行っていると推測されますが、その詳細な方針は通常、具体的には開示されにくい情報です。
競争環境と市場リスク
- グローバル競争の激化:世界的に自動車メーカー間の競争は厳しく、特に電動化シフトの中で新興メーカーも台頭しており、販売奨励金の増加圧力は継続する可能性があります。
- 品質関連費用:高品質な製品提供はマツダの強みですが、リコール対応や品質改善に関わる費用は常に発生しうるリスクです。2025年3月期も一定の影響がありました。
- 原材料・物流費の高止まり:地政学的リスクや人件費上昇を背景に、原材料価格や物流コストは依然として高い水準で推移しており、収益を圧迫する要因となり得ます。
地政学リスクとサプライチェーン
- 米国関税政策:最大の懸念事項であり、今後の業績に最も大きな影響を与える可能性のあるリスクです。日本製車両には現行の最恵国待遇(MFN)関税2.5%に加え、25%の自動車関税が上乗せされる可能性が示唆されています。メキシコ製車両(USMCA適合)や米国製車両についても、米国外からの調達部品に関税が適用される可能性があります。
- 半導体供給:一時期の深刻な供給不足は緩和されましたが、依然として一部製品では需給がタイトな状況も伝えられており、サプライチェーンの安定性は常に注視が必要です。
- リチウム等バッテリー原材料価格変動:電動化を進める上で、バッテリーの主要材料であるリチウムやニッケルなどの価格変動は、EVのコスト競争力に直接影響します。安定調達と価格変動リスクへの対応が求められます。
マツダの成長戦略:2030年経営方針の進捗
マツダは、2030年に向けた経営方針を着実に進めています。厳しい事業環境下でも、将来の成長に向けた投資を継続しています。
フェーズ1の成果とフェーズ2への移行
2030年経営方針は3つのフェーズで構成されています。フェーズ1(2022年3月期~2024年3月期)は「成長投資の原資獲得」をテーマとし、概ね計画通り進捗しました。
- 北米ビジネスの成長:販売台数増と収益性改善によりトップライン成長を牽引。2025年3月期には米国(43.5万台)、メキシコ(10.6万台)で過去最高の販売台数を達成。
- ラージ商品群の導入:CX-60、CX-90、CX-70、CX-80といった収益性の高いラージ商品群をグローバルに市場投入。
- 財務基盤の強化:利益とネットキャッシュ(2025年3月末で4,003億円)を着実に積み上げ。
現在はフェーズ2(2025年3月期~2027年3月期)に移行しており、「企業価値向上に向けたライトアセット戦略」と「マツダ ものづくり革新2.0」を推進し、実態に即した電動化マルチソリューションをさらに前進させる段階と位置づけられています。
戦略テーマ | 主な取り組み |
---|---|
ライトアセット戦略 | 保有資産の徹底活用、パートナー企業との協業による資産効率向上、レジリエンシーの高い経営 |
マツダ ものづくり革新2.0 | 柔軟かつ高効率な開発・生産プロセスの進化 |
事業改善活動 | 変動費削減1,000億円、固定費削減1,000億円、サプライチェーン構造変革 |
電動化戦略:「マルチソリューション」と「意志あるフォロワー」
マツダの電動化戦略は、全ての顧客ニーズやインフラ状況に一律のソリューションで応えるのではなく、地域や使い方に応じた最適なパワートレインを提供する「マルチソリューション」を基本としています。
- 多様な選択肢:高効率な内燃機関(SKYACTIV)、ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、バッテリーEV(BEV)を幅広く展開。ロータリーエンジン技術を活用したレンジエクステンダーEVも特徴的です。
- BEVは「意志あるフォロワー」:BEV市場の黎明期においては、急進的な全面シフトではなく、市場の成熟度やインフラ整備状況を見極めながら、協業も活用しつつ着実にBEVを投入していく方針です。
- 具体的な開発:次期CX-5、グローバル展開を視野に入れた自社製BEV、SKYACTIV-Z(直列6気筒エンジン等)、自社製ハイブリッドシステムの開発を進めています。中国市場では、長安汽車との協業で「MAZDA EZ-6」(BEV/PHEV)や「MAZDA EZ-60」(BEV)といったNEV(新エネルギー車)を投入し、電動化ニーズに対応しています。
市場戦略:北米の成功をアジアへ展開
フェーズ1で大きな成功を収めた北米市場でのブランド価値経営や事業改革のノウハウを、他の主要市場、特にアジア地域へ展開していく計画です。
- 中国市場の反転:NEVを軸に、長安汽車との連携を深め、ビジネスの立て直しを図る。
- 日本市場の強化:都市圏マーケットにおける取り組みやマーケティングコミュニケーションを強化。
- ASEAN市場の再構築:タイでは販売網再編に加え、2027年より新型小型SUVを生産開始し、輸出拠点としての役割も強化。インドネシアではCX-30の現地生産を進める。
「人への投資」と組織風土改革
マツダは、持続的な成長のためには「人」が最も重要な資本であるとし、人材育成と働きがいのある環境づくりに注力しています。
- 組織風土変革プログラム「BLUEPRINT」:2023年11月以降、全間接従業員約12,000名、さらに工場の直接従業員約11,000名へ展開。職位によらない自由な意見交換を活性化し、自律的な生産性向上を目指す。
- 働く環境の整備:技能系従業員向け社員寮の建て替え(広島市)、ソフトウェア人材獲得のための新R&Dオフィス開設(首都圏拠点整備)。
- 人事制度改革:従業員の専門性や経験を活かせるキャリアの複線化を推進。
競合比較:トヨタ・SUBARU・ホンダとの比較
マツダの立ち位置をより明確にするため、日本の主要な自動車メーカーであるトヨタ自動車、SUBARU、本田技研工業(ホンダ)と、公表されている指標や戦略の方向性を比較してみましょう。
主要財務指標とバリュエーション比較 (2025年5月時点の参考情報)
「自動車メーカー3社のバリュエーション比較分析(2025年5月時点)」の資料を参考に、一般的なバリュエーション指標を見てみます。なお、マツダの株価やそれに基づくリアルタイムのPER・PBRは日々変動するため、ここでは2025年3月期実績のEPS(191.48円)と年間配当(55円)を基に考えます。仮に2025年5月12日時点のマツダの株価を1,600円と仮定すると、PERは約8.4倍、配当利回りは約3.4%となります。(この株価はあくまで仮定です。)
指標 | トヨタ自動車 | SUBARU | ホンダ | マツダ (参考) | 業界平均 (参考) |
---|---|---|---|---|---|
PER(倍) | 8.6 | 5.36 | 6.56 | 約8.4 (仮定) | 7.2 |
PBR(倍) | 0.99 | 0.78 | 0.61 | (要計算) | 0.85 |
ROE(%) | 8.63 | 14.6 (推定) | 9.3 | 6.5 (実績) | 10.1 |
配当利回り(%) | 3.30 | 3.87 | 4.58 | 約3.4 (仮定) | 3.8 |
注:マツダのPER、配当利回りは2025年3月期実績EPS・配当と仮定株価に基づく参考値。PBRは別途計算が必要。競合他社と業界平均は「自動車メーカー3社のバリュエーション比較分析(2025年5月時点)」より。 単純比較は難しいものの、マツダの2025年3月期実績ROEは6.5%であり、競合他社や業界平均と比較するとやや低い水準にあります。PERや配当利回りは、株価水準によって変動しますが、一定の魅力を持つ可能性はあります。重要なのは、各社が置かれている状況や将来戦略の違いを理解することです。
電動化戦略の方向性の違い
「日本自動車メーカーのEV/PHEV投資計画とモデル投入スケジュール総括」の資料から、各社の電動化戦略には明確な違いが見て取れます。
- トヨタ自動車:全方位での電動化を掲げ、EV関連投資を5兆円に増額。2030年にEV販売350万台目標。ただし、足元の市場動向を踏まえ2026年のEV販売目標を下方修正するなど、柔軟な対応も見せる。全固体電池開発にも注力。
- 日産自動車:「Nissan Ambition 2030」を上方修正し、2030年までにEV19車種を含む電動車27車種を投入計画。2030年の電動車販売比率55%以上目標。全固体電池の2028年度市場投入を目指す。
- 本田技研工業:2030年度までの10年間で約10兆円という巨額の電動化投資を計画。2030年にEV生産約200万台、2040年にグローバルでEV・FCV販売比率100%を目指す。
- マツダ:前述の通り「マルチソリューション」とBEVにおける「意志あるフォロワー」戦略。巨額投資競争とは一線を画し、効率的な開発と協業を重視する姿勢。
マツダの戦略は、経営資源を集中させ、独自の強みを活かしつつ、電動化の大きな波に柔軟に対応しようとするものと評価できますが、市場の急速な変化に追随できるかどうかが鍵となります。
マツダ株への投資戦略:3つのシナリオ
これらの情報を踏まえ、マツダ株への投資戦略を3つのシナリオで考えてみましょう。
強気シナリオ:北米好調継続と円安効果、関税影響の軽微化
- 要因:
- 北米市場でのCX-50、CX-70、CX-90など新型SUVの販売が引き続き好調を維持。
- 為替レートが円安水準(例:1ドル150円前後)で安定し、収益を押し上げる。
- 米国関税政策の影響が予想よりも軽微に留まるか、マツダの対策(生産調整、コスト削減等)が奏功する。
- 2030年経営方針フェーズ2におけるコスト削減(変動費・固定費各1,000億円目標)が計画通り進捗する。
- 次期CX-5や新型EVが市場に好意的に受け入れられる。
- 投資判断:「買い」を検討。株価が現在の水準、あるいは多少の上昇を見せたとしても、業績回復と成長期待から魅力的な投資対象となり得ます。特に、関税問題がクリアになれば大きなポジティブサプライズとなる可能性があります。
中立シナリオ:電動化投資負担と販売台数横ばい、関税影響の限定的な吸収
- 要因:
- 北米販売は堅調ながら、他市場での苦戦が続き、グローバル販売台数は横ばい圏で推移。
- 電動化への研究開発投資や設備投資の負担が重く、利益率の改善が緩やか。
- 米国の関税がある程度導入されるものの、マツダの自助努力や一部価格転嫁により、致命的な影響は回避できる。
- コスト削減は進むものの、インフレ等により一部相殺される。
- 投資判断:「様子見」。現在の株価水準が適正価格帯である可能性があり、大きな値上がりも期待しにくい一方、安定配当は維持される可能性が高いです。関税政策の全容が明らかになる第1四半期決算後のアップデートを待って判断するのが賢明でしょう。
弱気シナリオ:円高進行、EV競争激化、関税の本格的影響
- 要因:
- 為替レートが大幅な円高(例:1ドル130円台など)に振れる。
- 米国で高率の関税が全面的に導入され、マツダの価格競争力が大幅に低下し、北米での販売・収益が急減。
- グローバルでのEV競争がさらに激化し、マツダの電動化戦略が後手に回る。
- 品質問題が再発したり、新モデルの投入が遅れたりする。
- 投資判断:「売り」または「投資見送り」を検討。業績の大幅な下振れリスクが高まり、株価も下落する可能性があります。特に、マツダにとって収益の柱である北米事業への影響は甚大です。
投資判断のポイント:注目すべき指標とタイミング
今後のマツダ株の投資判断においては、以下の点に注目すると良いでしょう。
- 米国関税政策の具体的な内容とマツダの対応策:2026年3月期第1四半期の決算発表時のアップデートが最初の大きな注目点です。
- 北米市場での販売台数と収益性の推移:特にCXシリーズの販売動向と、販売奨励金の水準。
- コスト削減策の進捗:フェーズ2で掲げる変動費・固定費各1,000億円の削減効果がいつ頃から具体的に現れるか。
- 電動化戦略の具体的な成果:新型EVの市場評価や販売実績、協業の進展。
- 為替動向:米国の金融政策や日本の金利動向などを受けた為替レートの変動。
本日の株価・株式情報・参考指標
- 終値:876.1円(前日比 -2.9円 / -0.33%、15:30リアルタイム)
- 前日終値:879円(05/09)
- 始値:878.8円(09:00)
- 日中高値・安値:912円(14:02)/860.5円(14:26)
- 出来高:20,266,600株 売買代金:17,860億円
- 値幅制限:729 〜 1,029円(05/12)
- 時価総額:5,535億円 発行済株式数:631,803,979株
- 配当利回り(会社予想):6.28% 1株配当:55円(2025/03期)
- PER(会社予想):3.94倍 PBR(実績):0.31倍
- EPS(会社予想):222.14円 BPS(実績):2,845.60円
- ROE(実績):13.07% 自己資本比率:45.8%
- 最低購入代金:87,610円(単元株数100株)
- 年初来高値/安値:1,115円(25/03/25)/723円(25/04/07)
- 次回決算発表日:2025年5月12日予定
- 投資家センチメント:強く買いたい38.1%・買いたい4.76%・様子見14.29%・売りたい9.52%・強く売りたい33.33%(直近1週間掲示板投稿より)
出典:Yahoo!ファイナンス — マツダ(7261) 株価・株式情報
マツダ(7261)のチャート分析・シナリオ
マツダ(7261)は、トランプショック以降の調整局面から1ヶ月が経過したものの、依然として本格的な回復には至っていません。チャート上では、75MA・25MA・5MAの三本の移動平均線が明確なデッドクロス配列(長期>中期>短期)を維持しており、典型的なベアトレンド相場を形成しています。 現在の株価は876.1円で、特に945円の抵抗帯を超えられない状態が続いています。直近では5MAが水平から若干上向きになり始め、価格も5MAを上抜けようとする動きを見せていましたが、決算発表後の大きな陰線形成により上値の重さが確認されました。 テクニカル分析のポイント
- 移動平均線:75MA>25MA>5MAの明確なデッドクロス配列が継続中
- 価格レンジ:945円の抵抗帯と860円付近のサポートラインの間で推移
- RSI:50付近で推移しており、売買の拮抗状態を示している
- 出来高:4月の大幅下落時に大きな出来高を伴い、底値圏では比較的安定した取引量
出来高分析からは、4月の急落時に大きな売り圧力があったことがわかりますが、その後の底値圏では比較的安定した取引量を維持しています。これは876円付近をサポートレベルとした底固めの動きとも解釈できますが、明確な買いシグナルとはまだ言えない状況です。 RSIは一時的に過売り圏(30以下)まで下落した後、現在は50付近まで回復していますが、強い買いサインを示すには至っていません。単純に売りと買いが拮抗している状態と考えられます。 今後考えられるシナリオ
- 下落シナリオ:5MAを下抜けて860円を割り込むようであれば、720円を目指した下落トレンドの継続が予想される
- 上昇シナリオ:900円の心理的節目を突破し、5MAと25MAのゴールデンクロスが発生すれば、1000円を目指した反発の可能性が出てくる
自動車セクターは地政学リスクの影響を受けやすいため、現時点ではエントリーに慎重な姿勢が望ましいでしょう。特に重要な判断ポイントとなるのは、5MAと25MAの位置関係の変化とRSIの動向です。900円の節目を突破するかどうかが、当面の相場方向を決める分岐点となりそうです。 ※(参考)以下の決算内容も参考にしてください
まとめ
マツダの2025年3月期決算は、売上高が過去最高を更新したものの、営業利益は販売奨励金の増加などにより前期比で減少する「増収減益」となりました。北米市場でのSUVモデルの好調な販売が売上を牽引しましたが、グローバルな競争環境の厳しさが改めて浮き彫りになりました。 最大の不透明要因は米国政府の関税政策であり、これが2026年3月期の業績予想を「未定」とさせている主因です。マツダは影響を最小限に抑えるべく全社的な対策を進める方針ですが、具体的な影響額が見通せるまでは株価も不安定な動きとなる可能性があります。 一方で、マツダは2030年経営方針に基づき、「ライトアセット戦略」や「マツダものづくり革新2.0」を推進し、電動化マルチソリューションを着実に進めています。北米でのブランド価値向上や、アジア市場への展開、そして「人への投資」による組織力強化など、中長期的な成長に向けた取り組みも継続しています。 個人投資家にとっては、当面は米国の関税政策に関する情報と、それに対するマツダの具体的な対応策を見極める必要があ
よくある質問
- 2025年3月期の売上高はいくらですか? 過去最高となる5兆189億円です(マツダ決算短信)。
- 営業利益が減少した最大の要因は何ですか? 北米を中心に販売奨励金が1,249億円増加したことが主因です(決算説明会資料)。
- 2026年3月期の業績予想は発表されていますか? 米国の追加関税動向が不透明なため、現時点では未定で、第1四半期決算時に開示予定です。
- 年間配当金はいくらになりますか? 中間25円・期末30円の合計55円を予定しています。
- 為替が1円円安になると業績へどの程度影響しますか? 営業利益が約20億円増加すると公表されています。
- 今後のEV・PHEV投入計画は? 2025年下期にCX-70 PHEV、2025年内に自社製BEV「EZ-60」を投入し、電動化比率を15%へ引き上げる方針です。
ります。短期的な株価変動リスクは高いものの、マツダ独自のブランド力や技術力、そして中長期的な成長戦略に期待するのであれば、関税問題がクリアになったタイミングや、株価が割安と判断できる水準での投資を検討する余地はあるでしょう。2025年3月期の年間配当55円(配当性向30.4%)という株主還元姿勢も評価できるポイントです。今後のマツダの動向を注意深く見守り、ご自身の投資スタンスに合った判断をしていくことが重要です。
参考サイト
- マツダ 2025年3月期 決算説明会資料(PDF) ‐ 売上高・営業利益の公式数値と増減要因が確認できます
- Car Watch:決算会見レポート ‐ 社長コメントや北米販売の詳細など、会見当日の補足情報が充実
- JETROビジネス短信:米国の自動車25%追加関税概要 ‐ 追加関税の対象品目と適用時期を整理した公的機関の解説
- マツダ公式「2030経営方針」ページ ‐ 電動化フェーズごとの投資計画とBEV比率目標を確認
- マツダニュースルーム:新型EV「EZ-60」発表 ‐ 今後の電動SUVラインアップと発売時期の公式リリース
初心者のための用語集
- 売上高:企業が商品やサービスを販売して得た総収入。利益ではなく「売れた金額」の合計です。
- 営業利益:売上高から原価・販管費など本業コストを差し引いた利益。本業の稼ぐ力を示します。
- EPS(1株当たり利益):当期純利益を発行済株式数で割った値。1株が生み出す利益を表します。
- ASP(平均販売価格):販売台数で割った平均単価。値上げや高付加価値化の効果を測る指標です。
- ラージ商品群:CX-70/CX-90など3列シートSUVに代表される高価格帯モデル群の社内呼称。
- 販売奨励金:ディーラー向け値引きやリベートなど販促費用。増えると利益を圧迫します。
- フリーキャッシュフロー:営業CFから投資CFを引いた残りの現金。配当や自社株買いの原資になります。
- 配当性向:当期純利益のうち配当に回す割合(%)。高いほど株主還元に積極的。
- ネットキャッシュ:現金等から有利子負債を差し引いた純手元資金。プラスなら財務体質が厚い証拠。
- 自社株買い:企業が市場から自社株を買い戻す施策。株価下支えと1株価値向上効果があります。
- 為替感応度:為替レートが1円動いた際の利益増減額。輸出比率が高いほど感応度も大きくなります。
- PER(株価収益率):株価 ÷ 1株当たり利益。低いほど割安、高いほど成長期待とされます。
- PBR(株価純資産倍率):株価 ÷ 1株当たり純資産。1倍未満は解散価値以下とされる目安。
- ROE(自己資本利益率):自己資本に対してどれだけ利益を上げたかを示す効率指標(%)。
- EV(電気自動車):モーターのみで走行する車。排ガスゼロが特徴。
- PHEV(プラグインハイブリッド):外部充電可能なハイブリッド車。EV走行とエンジン走行の両方が可能。
- BEV(バッテリーEV):ガソリンエンジンを持たない純粋な電池式EVのことを指します。
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